コラソンの裏切りが許され、ローが完治してからおよそ五年、ドフラミンゴの片目を移植されたナマエがファミリーに迎え入れられてから三年。ずいぶん長い時間があっという間に経ってしまって、ロシナンテはもはやロシナンテとして海軍にいることもできずにコラソンとして過ごしていた。センゴクには申し訳ないと思いながらも、なんだかんだと悪い空気にも慣れてしまったのだろう。重要な仕事は任されることはないが、ほとんど以前のような立ち位置まで戻ってきていた。
 なので目下、ロシナンテの悩みはファミリー間のいさかいなどではなく、ドフラミンゴとナマエのことだった。自分至上主義者であるドフラミンゴがまさか本当にナマエに自分の身体の一部をプレゼントするとは思っていなかったのだが、ドフラミンゴはナマエを説得し、ローはドフラミンゴからの願いを叶えるべく目の移植を成功させた。いいことなのだと思う。ドフラミンゴがナマエに対してだけでもそれだけ心を開いているのだし、罪もなく目を潰されたナマエの目が見えるようになったのだから、いいことだとロシナンテは思う。思うのだけれど。


「ナマエ、おかえり」

「ああ、ただいまドフィくん」


 それもこれも、ちゅっちゅっ、と目の前で繰り広げられるいちゃつきがなければ、の話なのだ。もうサングラスをしてないナマエの目元に唇を押し当てているドフラミンゴという図が非常に目に毒だった。ナマエもナマエで、ドフラミンゴがキスをしやすいようにほんのすこし屈んで見せたり、お返しにわざわざサングラスを少しだけずらして同じようにキスを送っている様を見ると、一見ただの恋人同士なのだけれど、二人の関係は相変わらずのままだった。


「……ナマエおじいちゃん、おかえり」


 せめて通りがからないような場所でやってもらえないだろうか。そんなことを思いながらコラソンがナマエに声をかけると、ナマエは「ああ、ただいまロシーくん」とドフラミンゴに向けたものと大差ない笑みを浮かべるのだ。
 ドフラミンゴは少しだけむっとして、けれどすぐにニンマリと笑みを作ってナマエの腰に手を回し、耳元で何かを離し始めた。ナマエは穏やかな顔でその話を聞き、相槌を打っている。コラソンは引きつった笑いを浮かべながら、ゆっくりとその場を離れることにした。背を向けたコラソンの背にドフラミンゴの声が一言かけられた。


「ロシー、これからナマエと遊ぶから他のやつらにも言っとけ」

「……わかった」


 遊ぶだなんて普通の大人であったのならまず出ない言葉で、それは何か深い意味のあるやましい響きを持ったものなのではないかと勘繰りたくなるものの──実際にドフラミンゴはそれを望んでいるのだろうけれど、事実はもっと単純だ。ドフラミンゴとナマエは本当にチェスなどのボードゲームで遊んでいるだけなのだから。
 はじめは純粋無垢なナマエを守らねばと気負っていたものの、天然とは恐ろしいもので、ナマエはドフラミンゴのアプローチに気づきもせず幼子を扱うように華麗にさばいてしまうばかりだった。しかもコラソンがドジを踏んで邪魔しに行けなくともドフラミンゴは意外なことに無理強いすることはしない──というよりも、どうやらナマエから自主的に手を出してくれるのを待っていて、襲いたいわけではなく襲われたいようだったので手を出すことはしていないだけなのだが、それもあって二人の関係はコラソンの見る限り一歩の進展も起こってはいなかった。
 知りたくもなかった自身の兄の性癖を察してしまって、コラソンの心的ダメージはかなり大きいものになっている。ナマエおじいちゃんをそんな目で見るのはやめてくれと思う反面、もういっそくっついてくれればいいのにと思うようになってきた。


「今日こそは勝ってみせるよ」

「フッフッフ、そいつはどうだか!」


 ああやって楽しそうにしているドフラミンゴを見ると、ずっとそうしていてほしいと思ってしまうのだ。欲を言えば、もっと幸せになってほしい。だがナマエの意思も無下にできるものではない。
 ロシナンテには惚れた腫れたを手伝うことは難しいし、ナマエはまだドフラミンゴとロシナンテを幼子のままだと思っていて何も気が付いていないし、ドフラミンゴはこのじれったい関係を存外楽しんでいる。
 だからそう、コラソンにできることは、とりあえず、ナマエに長生きをしてもらうことだ。身体によさそうなものを取りそろえようと思考を切り替えたせいで、ドフラミンゴの伝言のことはすっかり忘れてしまった。ドジはいまだ健在である。

どうか二人を幸せに
昨年の生誕時の「誰もが優しくなれる」の世界で、数年経って事あるごとにキスしてるドフラミンゴ(性愛)と主人公(家族愛)に、ドフィが幸せそうだから喜ばしいけど胃が痛いロシナンテさん@匿名さん
リクエストありがとうございました!


mae:tsugi

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