「……ロブくんさァ、またやってくれたね」 先生がそう言ってぺらりとおれの答案を見せてくる。まっ白な解答用紙に書かれているのは零という数字だけ。あってるか間違ってるかわからないような小賢しい解答を書かなかっただけ褒めてくれてもいいのに。小賢しい解答をしていたら先生の手を煩わせたのに。 だが本来なら出来た問題を一問も解かなかったことに関して言っているということはわかりきっているので、そんなことを言うのはやめておいた。どうせ先生はおれがなんの目的でこんなことをやっているのかわかっているのだ。 「ロブくん、三年生っていう自覚ある? こんな点数出したら成績下がるんだよ?」 「この時期の成績入りませんから」 「……よくご存知で」 自分の学校と自分の受ける大学のことくらいわかっていて当然だ。はあ、と先生は深いため息をついていた。頭が痛いとでも言いたげな顔をしている。それはそうだろう。おれは自分でも頭がよくてこの学校では優等生として通っているし、大学も先生のいた某有名大を受けることになっているのだから、学校側からしてみれば先生は成績を落とす原因になった厄介ものだ。まあ、あながち間違ってもいないが。 「そんなにおれに呼び出しくらいたいの?」 「クリスマスに、補習があるでしょう」 「ああだからみんな必死こいて勉強…………あー、そういうことかァ……」 先生は頭を抱えて項垂れてしまった。クリスマスを一緒に過ごしたいだなんていう生徒のいじらしい思いに感動を受けたわけではないだろう。本当に頭を痛めているのだ。おれの思考をなぞらない先生が悪い。あんな餌が釣り下がっていたら喜んで補習を受けるに決まっているのに。 「あのなァ、補習って言っても他に呼び出されるやつはいるし、少なくともお前と二人きりって展開はどう考えてもありえねェんだぞ?」 「二人きりじゃなくてもいいです」 「……なんでこだわるかね」 理解できないという顔をしている先生は、きっと恋だの愛だのというものをしたことがないのだろうと思った。好きな人とクリスマスを過ごしたいと考えるのはそれほど一般的な思考である。その考えが目線に出たのか、先生はすこしたじろいだように「な、なんだよ」と言葉をこぼした。どうしてこんな察しの悪い男を好きになってしまったんだろう。だが好きなのだから仕方ない。口を開けば言葉よりも先にため息が出た。 「最後のクリスマスに、一緒にいたいと思うのはいけないことですか」 「は? 最後のクリスマス?」 「……先生はおれに留年しろとおっしゃりたいんですか」 先生も言ったようにおれは三年生だ。もう来年にはこの学校にいない。来年のクリスマスには誰かの補習を見ているであろう先生に嫉妬でもしていることだろう。先生はというとぽかんとしていた。おれが卒業することでも忘れていたのだろうか、と思ったら、想像もしていなかった言葉を口にされた。 「なんだ、ロブくん卒業したらおれに会いに来る気ねェのか。あんなことまでしたくせに意外だな」 不思議なものを見るような目でおれを見てくる先生は、どうやらこの先も変わらずおれが会いに来るのだろうと思っていたらしい。それが当たり前だと、受け入れてくれていたようだ。 「…………会いに来て、いいのか」 「いいよ」 「本当に?」 「おう、本当に。なんでロブくん疑ってんの?」 訳が分からないという顔をして困ったようにおれを見てくる先生を、これ以上見ていることはできなかった。バカヤロウ、これ以上好きにさせてくれるな。 クリスマスに化学教師と一緒に過ごしたくてまたテストでわざと0点取って冬休み補修に出るルッチ@ぴろりさん リクエストありがとうございました! |