自分の方が高いから、クロコダイルのことが小さく見えるのだとわかっていても、なんだか可愛いなァなんて思ってしまう。見下ろした先で、クロコダイルはとても嫌そうに顔を歪めている。余程おれに見られるのが嫌と見える。それが楽しくてつい笑ってしまうおれは性格があまりよろしくないのだろう。ニヤニヤしていると、ようやく視線がこちらに向けられた。息を飲むほど美しい瞳だと思う。その目がおれを見ていることが嬉しくなってニヤニヤが緩やかな笑みへと変わる。クロコダイルは不機嫌そうに眼を細めている。


「じろじろ見てんじゃねェ」

「つれねェこと言うなよ、見てるだけじゃねェか。減るもんでもあるまいしよ」

「てめェに見られると苛立って寿命が減んだよ」


 苛立つことはたしかにストレスを感じているということなので身体にはよろしくない、すなわち寿命も減るだろう。たしかにもっともなことだが、クロコダイルの寿命がおれのせいで減っているというのはそんなに悪い気もしない。原因がおれで死ぬだなんて最高じゃないか。思ったままに言葉を発せば、早く死ねという意味だと考えられて自分の意志が伝わらないだろうから口を開かずニマリと笑っておいた。しかしそれだけでも十分厭味ったらしい意味だと思われたらしく、クロコダイルの眉間の皺は大変なことになっている。つい手を伸ばしてぐりぐりとほぐしたくなるのだが、砂になって逃げられるのがオチである。……ということは、能力で固めてしまってからほぐせばいいのではないだろうか。
 蜘蛛が這いよるかのように気づかれないように糸を伸ばしていき、気が付かない内にロックする。ぎちりとクロコダイルの身体を固めてやれば、今になって状況に気が付いたらしい。砂になることさえ許さないおれの糸のせいで、クロコダイルは最高潮に機嫌が悪い。


「テメェ……!」

「大人しくしてろよ、クロコちゃん」


 眉間の皺をぐりぐりと親指で押しつぶせば、クロコダイルは余計に顔を歪めるばかりだった。それにしてもきっちりと刻み込まれすぎてまるで皺が伸びなくて笑ってしまう。どんだけストレス感じてんだ、こいつ。クククと喉の奥で笑っていると、ごほんと一つ咳払い。音の方に視線を向けるとセンゴクの姿がある。「会議に集中してくれんか」と怒られてしまった。肩を竦めてクロコダイルを解放すると頭を一発殴られた。「愛ある拳はいてェなァ、クロコちゃん」。そう茶化すと今度は無視された。……つまらん。隣に座っているクロコダイルを指で突いてみたり、とちょっかいを出し続けているとギロリと睨まれてしまった。


「いい年して落ち着けねェのか、テメェは」

「つっまんねェ会議だから仕方ねェだろ」

「なら来なきゃあいい」

「いや、暇だったし、クロコちゃん来るだろうと思ってよォ」


 じゃなきゃあこんなクソつまらない議題のときに顔を出したりなんかしない。大半の人間がサボってもクロコダイルかくまのどちらかは大抵いるらしいので、いい刺激になるし、となるべく会議には顔を出すことにしている。今日なんか二人しか来ていないが、これで来ている方だというのだから海賊ってやつは不真面目だ。……ああでも真面目すぎて海賊になったっぽいやつもいたっけ。
 クロコダイルはおれの返答が余程嫌だったのか、露骨に顔を顰めてみせた。その顔が面白くて笑っているうちに会議は終了してしまった。おれのせいかな、と思わんでもなかったが、実際のところ七武海を招集しても来ないことが前提だし決めるのは結局センゴクなので関係ないと言えば関係ないのだ。議場から素早く出て行ったクロコダイルの背を追ってみる。足取りはとても早い。まるでおれから逃げたいみたいで、小動物を虐めているような気分にさせられた。


「会議も終わったし飯行かねェか。食う時間くらいあんだろ?」

「は、フラミンゴ野郎と食う飯なんかねェよ」

「そりゃあ残念だ」


 断られるのを前提で聞いてみたが、見事に玉砕した。誘っておいてなんだが、クロコダイルが飯を食いながら世間話をしてくれるとも思えなかった。さて、これからどうするか、もう少しクロコダイルに構っておきたい。そう思っていると子電伝虫が鳴り始めた。何かと思って出てみれば、バッファローからだった。外で待たせているため会議が終わったことに気が付き連絡してきたようだった。


「どうした」

『トレーボルから連絡があっただすやん! ベビー5のやつ結婚して移住するとのことで!』

「あァ? またか、あの馬鹿娘」


 ベビー5の人に頼られたいという癖はどうにかならないものだろうか。頼みごとをして、うまくできなくとも褒めてやって、それが嬉しいものだと刷り込んじまったのはおれだが……それにしたって限度がある。おれやファミリーの人間に対してのみ発動するならまだしも、どうして全く関係ないような一般人にひっかかるのか。しかもダメなやつばかり。「それで、相手は?」。せめて相手がまともな人間だと言うのなら寿退社も認めよう。しかしながら相手によっちゃあ……『いんやー、いつも通りクズ野郎だすやん! 結婚したら間違いなくこき使われるのが目に見えてるってなもんで……』。本当にいつも通り過ぎて頭が痛くなるようだった。相手は選べという言葉の意味をいつになったら理解してもらえるのだろうか。「……今から船に戻る。出港の準備をしておけ」。『了解! 行先はベビー5の婚約者のとこで?』。さすがバッファローよくわかっている。


「ああ、焼き討ちだ」


 バッファローの返事を聞いてからがちゃんと子電伝虫を切って、いまだそこに残っていたクロコダイルに視線を向ける。大方弱味でも握れないかと聞き耳を立てていたのだろうが、こんなところでそんな話をするわけもないのに。それでも情報収集しようという気概は悪くはない。この世は弱肉強食、やれることはすべてやらねばいつか食われてしまうのだから。ニマリといつものように笑みを作ってクロコダイルを見る。少しばかり不機嫌そうな表情はいつも通りのそれである。


「ってわけでよ、ちょっと用事が出来ちまったから飯はまた今度な」

「いかねェって言ったのがわからなかったのか?」

「フッフッフ、自分に都合の悪ィことは聞かねェことにしてるのさ」


 笑えばクロコダイルはため息をついた。おれが帰るってんで我慢でもしているのだろう。期待を裏切ってもうすこしちょっかいを出していたかったが、ベビー5のことがある以上そうもいかない。唇の端を上げて、クロコダイルを一瞬にして縛り上げる。やはり反応速度のよろしくないクロコダイルでは予測していなければ防御できないらしい。「テメェ、いい加減にしろよ!」と怒鳴るクロコダイルに近寄って皺の寄った眉間にキスを一つ。至極嫌そうな顔がたまらない。


「じゃあな、愛してんぜクロコちゃん」


 歩き出して一定の距離が取れてから解放すると、クロコダイルは乱暴な足音を立てて逆方向に歩いて行った。まったく、そういう反応をするからからかいたくなるというのに。相変わらず可愛いやつだった。

誰にでもやってんだろ



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