ドフラミンゴ成り代わりシリーズと同主


「ようクロコちゃん。元気してたか?」


 たまたま上陸した島で知り合いに出会えるとは思っていなかったが、それがクロコダイルだというのだから運命というものはどうやらあるらしい。
 とはいえ、運命を感じているのはおれだけらしく、クロコダイルはいつものように眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。お互い縄張りでも何でもない島でこうして出会えるのだから、おれは運命だと思うのだが、クロコダイルにとっては嫌な縁と言ったところか。


「さて、一緒に飯でもどうだ?」


 元気にしてたか、についての返答はないのだろうと踏んで、いつものように食事に誘った。おそらくいつものように断られるのだろう──と思っていたら、である。
 クロコダイルは黙り込んで何かを考えているようだった。おれの方をじいと見て、損得勘定でもしているのだろうか? 面白い展開になった、と唇がニンマリ笑みを作った。


「おれの奢りだぜ」

「そんなことは当たり前だろうが」

「この島で一番いい店を貸し切るか? すぐに話は通せるぞ」

「何の店だ」

「その店は和食だな。一応、クロコちゃんの口に合いそうな高級イタリアンもあるぞ」


 おれの口はどっちかっていうとイタリアンの口になっているが、久しぶりに和食にするというのもいいだろう。船で食うときは大抵イタリアンだのヒスパニック系の濃い味の飯になるのだから、たまには健康的な食事にするのもありだ。
 条件の提示が終わると、少しの沈黙の後、クロコダイルはうなずいた。見間違いではないとわかるほどに、はっきりと首を上下に振ったのだ。

 すわ天変地異の前触れか。

 サングラスの奥で目蓋を開閉させて驚いたが、その驚きを表に出せばクロコダイルの機嫌を損ねることは間違いなく、食事どころではなくなってしまうことだろう。だからこそ、いつものような笑みを保ったまま、店の方を指差した。


「和食ならこっち、イタリアンならあっちだ。どうする?」

「和食」

「そうか。クロコちゃんは濃い味は好きじゃねェのか?」

「味の濃い飯は戻ればいくらでもある」


 たしかにアラバスタはそれなりに濃い味の料理も多い。とはいえ、とびっきり味が濃くて胃がもたれる、というようなものではないが。
 年なのか、とちょっかいを掛けようと思って、やめた。せっかく気分よく飯に付き合ってくれようとしているのだから、余計なことをして怒らせるようなことは避けるべきだろう。


「……てめェが静かだと気持ち悪ィな」

「フッフッフ! そりゃ失礼ってもんだぜクロコちゃん!」


 だがわざわざ口を噤んだことがわかったのか、クロコダイルは訝しげに目を細めておれを見て来た。クロコダイルと比べたらおれは落ち着きがない方だが、だからといってずっとふざけっぱなしというわけでもない。
 ファミリーを守るためにシリアスな空気を出すこともあるし、余計な真似をしてくれた連中を静かに殲滅することもある。まあ、そもそもおれは裏で画策する方が得意で、真正面からぶっ壊すタイプではないのだが……もしかして単純なやつだと思われているのだろうか?

 世間話に花が咲くわけでもなく、あまり会話のないまま店に辿り着くと、店はまだ準備中だった。だがそんなことは百も承知だ。遠慮なしに戸を開くと、女将が慌てて駆け寄って来た。


「すみません、お客さん。うちはまだ開店前……あら、ドフラミンゴさん!」

「久しぶりだな女将。開店前で悪いが、大事な客人がいてな。少し貸し切れねェか?」

「ふふ、本当はダメですけどドフラミンゴさんですものね、構いませんよ。お座敷、ご用意しますね」

「フッフッフ、悪ィな。頼む」


 にこやかに会話を終わらせて座敷へと案内されると、クロコダイルはまだ訝しげな顔をしたままだった。何が気になっているのかさっぱりわからないが、おれだから、と通されたことだろうか。クロコダイルより随分後になったとはいえ、それなりに影響力を持つ七武海なんだがなァ。


「女将の娘を助けたことがあってな。それから懇意にしてるんだ」

「お前が人助け? キツイ冗談だ」

「フッフッフ! おれはこう見えて優しい男だぜ?」


 クロコダイルのように見るからに力のある悪いやつではなく、見た目はチンピラのそれかもしれないが、おれは大分優しい方の海賊だろう。理不尽な略奪も、理不尽な暴力も、理不尽な侵攻も行わないし、勿論、七武海に相応しく弱者には優しい。


「どこが」


 はん、と鼻で笑われてしまったので、おれの中の『優しい』とクロコダイルの中の『優しい』は違うらしい。だが優しくないと断言するくらいだ。おれの情報を集め、精査しているからこそだろう。
 どのような感情からであれ、おれのことを知ろうとしてくれているのは素直に嬉しくて、唇がニヤニヤと笑ってしまう。


「気持ち悪ィ笑い方をするな」

「フッフッフ、そうひでェこと言うなよ」


 クロコダイルは変なものでも見るように、少し不愉快そうに目を細めた。

魅惑の偽善者
ドフラミンゴ成り代わりの続きで、クロコダイルがちょっとだけデレる話@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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