emergency call番外、原作介入


 新聞の一面を飾っていた記事を目にした途端、「ピエエッ?!」と変な声を上げてしまった。何せ我が子……と言っても血の繋がらない息子である上、いつの間にか海賊になって悪さをしているような子だったが、すぐに七武海として落ち着いたし、そうでなくともおれにとっては大変可愛い息子であるクロコダイルが、新聞の一面を飾っていたのだ。七武海としての活躍ではなく──緊急逮捕という形で。しかも国家転覆による王位簒奪未遂とも言える、とんでもない罪である。
 ……いや待て待てなんかの間違いじゃない? うちの子に限ってまさかそんな。最近は革命が起こりそうで危ないからっておれを違う島に逃がしてくれたような優しい子がまさかそんなことするわけ…………ありそうかなァ。

 おれの育て方が悪かったのか、おれと出会う前の両親による虐待のせいか、クロコダイルはおれ以外の人間を基本的に信頼していないきらいがある。そしてその信頼に及ばない人たちを虫けらのように踏みにじってもいいと本気で思っている。要するにおれ以外全員虫けら以下なので……その結果ということなのだろう。
 革命が起こりそうだってわかってたのも、自分で火種蒔いてたからかもしれない。危ないから避難させた、というより、おれにバレる可能性を考慮して実行日にはきっちり追い出していたのだろう。うーん、実に用意周到なことだ。なんとも恐れ入った。とっても頭が痛い。

 はあ、と溜め息を吐いて、電話をする。ツーコールで繋がった相手に、とりあえずお詫びを入れた。


「うちの息子がすみません──!!」


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 クロコダイルにとって、ノウェムとは父であり、兄であり、友であり、ありとあらゆる良い関係性の言葉を当てはめたくなるほど、全幅の信頼を置くたった一人の高度な知能を持つ生物である。だがその根幹は頭を疑うほどの善性で構成されており、悪性の塊とも言えるクロコダイルとは根本的な意味で相容れぬことはない。
 とはいえ、ノウェムにとってもクロコダイルは最愛の息子だ。説教と制止を繰り返しても最後の最後、クロコダイルが折れぬと分かれば悪性ごと受け入れることは目に見えている。しかし遂行しきっていなければ、否応なしに邪魔が入るのは目に見えていた。
 それはそれで面白そうではあるものの、どうせならと隠し通して事を進め、後戻りできぬところまで終わらせてからバラすつもりだったのだが、ノウェムにバレないようにと気を使いすぎて他の作戦がやや疎かになってしまったのである。
 馬鹿らしいが、痛恨のミスだった。結局、失敗という形でノウェムに知られることになったはずだ。

 ゆえに、クロコダイルは脱走することなくインペルダウンに向かうことを選んだ。

 どうせ逃げ出したところでノウェムに見つけられれば、インペルダウンに放り込まれることになるのだ。あの男、ぼうっとした顔をしているが、元は意外にも名のある賞金稼ぎで、海軍本部には伝手がある。
 本気を出せばすぐに見つかって放り込まれるだろうし、下手をしたらノウェムは一緒にインペルダウンに入るなどと言いだしそうで、ノウェムに不自由を強いるのはクロコダイルも本意ではなかった。

 だったらとりあえずは反省した振りをしてインペルダウンに入った方がマシだった。ある程度大人しくしていればノウェムは許してくれるのだから、怒りがさめやすいように逃げ出すことなく入った方が賢いだろう。
 とはいえ、一生インペルダウンに収監されている気はさらさらなかった。脱獄不可能だなんだと言われてはいるが、実際に金獅子が出てきているのだから、出られない道理などないのである。
 大体、この世に完璧なものなどない。ノウェムの善性にクロコダイルという例外があるように、クロコダイルの計画がしょうもない失敗したように、インペルダウンにだって穴はある。人間が作ったものなんかに完璧なものがあるわけがないのだから。

 少し頭を冷やしたら、インペルダウンを出てノウェムに会いに行こう。しおらしい顔をして謝って、甘えていればすぐに忘れて絆されるはずだ──というのが、クロコダイルの予定だったのだが。
 インペルダウンに入り、洗礼を受け、LEVEL6だなんていう牢獄に入れられて、その予定は前提から崩れ去ってしまったのである。


「クロコダイル、正座しなさい」


 ノウェムがいた。同じ檻の中に、唯一連れて来たくなかったノウェムが、どうしてか腕を組んで立っていた。


「……ノウェム、なんでここに」

「いいから! 正座!!」


 クロコダイルの問いに答えることなく、ノウェムは床を指さした。聞くまでもなく、クロコダイルを追ってきたのだろう。クロコダイルの育ての親ではあるものの、なんら罪を犯していないノウェムまで投獄した海軍のことがまたひとつ嫌いになった。本当に、どこまでも忌々しい組織だ。
 内心で海軍に対する憎悪をたぎらせつつも、ノウェムがクロコダイルのためにわざわざ来てくれたことに、少しだけ嬉しくなる。同時に牢獄へ閉じ込めた申し訳なさもあり、渋々言葉に従うと、他の檻からざわめきと嘲笑が聞こえてきた。いい年した男が親に正座させられている様は、クロコダイルの剥奪された地位も手伝って公開処刑である。
 ……後でここにいるやつら全員殺そう。その内容まではわからなくとも、悪いことを考えたのがバレたのか、ノウェムはまなじりを吊り上げてクロコダイルを睨んできた。


「どうしてお前、ああいうことしたの!」

「別に」

「別にじゃないの!」


 そんなふうに怒られても、クロコダイルには口に出せる理由など何もなかった。なにせ、クロコダイルはノウェムが好きなだけなのである。そう言ったところで伝わらないだろうが、要するに、ノウェムに隠れて悪いことや凄いことをして、バレたときに構われたいだけなのだ。
 だがそれを口にするとノウェムは間違いなく落ち込むだろう。自分のせいで虫けらの命が失われたから、などと、大したことでもないのに気に病むのだ。
 クロコダイルはノウェムに怒られたり、喜ばれたりするのは好きだが、決して泣かせたいわけではない。悲しそうな顔で涙をぽろぽろとこぼす様はクロコダイルの心臓をきりきりと締め付けてくる。だから今日もしれっと嘘をついた。


「理由なんか特にねェよ」

「ないの! ないのに国家転覆!? もおおおおおっ! おれ、そんなふうに育てた!?」

「お前が甘やかして育てたんだろ」

「たしかに……クロコダイル、可愛いから、ついつい甘やかして育てた……」


 ノウェムは一人で顔面蒼白だ。クロコダイルがノウェムにとって可愛いのは当たり前で、愛さずにはいられないのも当然なのだから今更思い悩んでも仕方がないというのに、実にしょうもないことで悩んでいた。
 クロコダイルはノウェムが落ち込んでいる隙に立ち上がり、椅子のようなものに腰掛けた。海楼石をつけられているせいで随分体がだるかった。
 はあ、とため息をつくころには、ノウェムが隣に座っていた。同じように海楼石をつけられているくせに、ノウェムは平然としていて、妙な安心感を与えてくれる。


「大丈夫? 寝る? 膝貸そうか?」


 甲斐甲斐しい発言に、クロコダイルは頬を緩めて頭を預けた。いい子、いい子。そう言いながら膝の上に乗せたクロコダイルの頭を撫でてくる。よもや牢獄に入ってそんなふうに言われるとは。ノウェムはクロコダイルが国家転覆をしかけたことはもう忘れたらしい。
 思わず噴き出すと、ノウェムは不思議そうな顔でクロコダイルを見下ろしていた。その目がどうにも愛しくて、インペルダウンで仲良しこよしも悪くないな、と思ってしまった。

悪戯小僧による国家転覆未遂の終わりに
「emergency call」の原作軸で、頂上決戦まで鰐男さんが生き残っていればぜひ・・・。@匿名さん
リクエストありがとうございました!頂上決戦まで行きませんでした……!



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