おれってやつはどうして罰ゲーム込みでやると賭け事に負けるんだろうか。しかもクザンの出した罰ゲームえぐすぎて笑った。サカズキにローキックとか逃げ切れる気がしない。でもおれは男だ、一度約束したことは守る。たとえそれがどれほどやりたくない罰ゲームであったとしてもだ!
 おれは覚悟を決めてサカズキを探し始めた。クザンのやつはおれがちゃんと罰ゲームをするか見張るため、監視電伝虫を借りてきておれの頭の上にガムテープで設置してくれやがったので、逃げようなんてない。フフフ……と呪われそうな笑い声を出しながら徘徊していると周りの海兵たちからこそこそと陰口を叩かれた。ナマエ中将どうしたんだ? 誰か呼んできた方がいいのか? などなど聞こえてくる。よし、その調子でサカズキを呼び出してくれたまえ。思いながらサカズキのいそうな場所を徘徊するが、見つからない。えー、マジでどこにいんの? きょろきょろとしていると後ろから聞き覚えのある足音。振り返れば目当てのサカズキが怪訝な顔で立っていた。


「ナマエ、お前何をやっちょるんじゃ」

「おおおッ、サカズキきたー!」

「……本当におかしくなっとるようじゃなァ」


 おかしい子扱いされてるけど、それは全部クザンのせいだから。あいつがこんな酷な罰ゲームなんて考えなかったらいつも通りのおれでしたし。いつも通りのおれが一般的な人間かと言われるとそれはちょっとわからないけど、まあ、今の変質者じみたおれよりはよっぽどマシだと思う。おれは頭の上に監視電伝虫を乗せたまま、ずびしとサカズキを指差した。


「サカズキ、」

「……なんじゃァ」

「覚悟ぉッ!」


 一応正々堂々、という感じで突っ込んでみる。だが当然そんなわかりきっている攻撃がサカズキに入るわけがないので、フェイントを入れる。しかも三つくらい。逆におれがわかんなくなりそうだったが、どうにかローキックを噛ますことができた。あ、ちょっと痛そう。脛を押さえていたサカズキがゆらりと面を上げた。──悪鬼羅刹のごとく、という言葉を思い出した。


「ナマエ、貴様、どういうつもりでやったんか、聞かせてもらおうかのう……」

「あ、え、えーと、じゃァ!」


 おれは必死に逃げ出した。おそらくいまだかつてない速度であったと自負している。後ろから待てという意味の単語が怒号として聞こえてくる中、おれはただただ逃げ出した。まだマグマの餌食にはなりたくない!
 五分後、おれは見事に捕まって縄で縛られ転がされていた。しかも廊下のど真ん中で。道行く海兵がナマエ中将なにやったの? と胡乱げな目線を向けてきてとても胸が痛い。殴られた顔面も痛いし、引きずられたから背中も痛い。うう、痛いとこばっかだな、おれ。ついでにサカズキに怒られて耳も痛い。


「それで、ナマエは何をしたかったんじゃァ」

「いえ、その、カードで負けたやつの罰ゲームでですね……クザンがサカズキの脛を蹴って来いって……」

「あァ? ……ほーか、あいつが原因か」


 ちょっと待ってろ、との言葉だけを残してサカズキは行ってしまったけれど、おれの現状を思い出してほしい。顔面がうっすら腫れてて縄でぐるぐる巻きにされて廊下に放置されてるんですよ。しかも頭の上には監視電伝虫がガムテープで固定されているという状況。遠巻きに海兵たちがものすごくざわざわしている。うう、おれのマゾ疑惑とかうまれちゃう……! 部下来て助けてくれないかな、と半泣きでいたら、部下ではなくサカズキに捕まったクザンが連れてこられた。クザンは変な笑顔のまま固まっている。ざまあみろ。


「よおクザン、早かったなァ」

「にやにやしてんじゃねェよ、ナマエ! 人のこと売りやがって!」

「あー? お前がサカズキ蹴れとか言うからいけないんだろ、バーカ」

「おれはサカズキ蹴れなんて言ってないでしょ!? 語弊!!」


 クザンがぷんぷん怒っているがまるで可愛くないのでぶん殴りたい気持ちになった。いい年してぷんぷんって感じに怒るのとか本当にどうかと思うぞクザン。おれが冷やかな視線を送ったことが気に食わなかったのか、おれが縛られて転がっているのをいいことに蹴りを入れてくる。無抵抗の人間になんてことするんだこいつは。海兵の風上にも置けないクソ野郎だ。


「卑怯者! 人類のクズ!」

「そこまで言われることはしてないと思うんだけど?」

「……お前ら、いつまでふざけちょるんじゃァ?」


 地を這うような恐ろしい声が聞こえてきて、クザンがひいって言った。おれは自分のせいじゃなくてクザンのせいだと思っているので全然怖くない。だっておれ怒られる理由ないもーん。大将命令だったから仕方なくだしー。その本心を口に出したら怒られるんだろうな、と思いながらビビってるクザンを見ていると、自分の保身からクザンはおれをずびしと指差してきた。


「おれは、好きな人をローキックしてこいって言ったんであって、サカズキ蹴れだなんて言ってねェから!」

「クザンお前、おれがサカズキのこと好きって知ってるくせによく自分は悪くありませんって顔してられるな。ちょっと爆発して来いよ」

「嫌だっつーの!」


 おれたちが醜く責任の擦り付け合いをしているというのに、周りはすっかり静かになってしまっていた。あり? なんで? わからなくてちょっとこの空気が怖くなる。理解できないってこわいよね、本当。サカズキもおれたちを怒ることなく、非常に驚いている。クザンに目を向ければなんとも言えない顔をしていた。


「え? なに、クザン、おれたちなんか変なこと言った?」

「あー……おれたちっていうか、ナマエが?」

「え、爆発して来いって駄目だった?」

「いやァ、それより前にさァ……おれは知ってたけど、他の奴らが知らなかったこと、あんでしょ」


 クザンは何が原因かわかっているような顔をしているが、おれは全然わからない。クザンの言葉をヒントに考えてみても、自分が発した言葉なんてもうすっかり忘れてしまっている。そんなに重要でヤバい爆弾落としたか? いまだに静まり返っている空間の中で、クザンが「ヒント。ナマエはサカズキのことが、さあなんでしょう」となんかムカつく言い方でヒントを出してきた。とりあえずはこの状況を打開するため答えることにしたが、あとでクザンには簡単ないたずらをしようと思う。


「おれはサカズキのことが? 好きに決まってんじゃねェか」


 それがどうした、と続けようと思った言葉は、周りの阿鼻叫喚に掻き消された。うるっせェ! なに!? と思って周りを見渡せば、サカズキが驚いてこっちを見つめていた。あ、本人の前だった。

色気もムードもへったくれもない

サカズキさん@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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