男主×先天性女体化クロコダイルで、同じ5000にある『明日の爪は整っている』と同主。苦手な方はご注意を!



 クロコダイルは、自分が嫉妬に狂うという情景を考えただけで吐き気がするし、絶対にそんな愚かしい真似はしたくないと考えていた。そもそもの話、ナマエが嫉妬をするならばともかくとしても、自分が嫉妬をすることないとも考えていた。自分の美しさは客観的にわかっていたし、男ならば自分を求めずにはいられないことも理解していた。勿論、その男の中にはナマエも含まれていていた。クロコダイルには確固たる自信があったのだ。あるのではなく、あっただけのこと。
 ずっとそのままでいられなかったのには理由がある。その一因は、ナマエがたくましく成長しすぎたことだ。昔はクロコダイルよりも小さくて弱弱しかったはずのナマエが、美丈夫を経て、獅子を連想させるようないい男になりすぎてしまった。それはクロコダイルの横に並ぶための研鑚があってこそだったが、ナマエがどれほどクロコダイルを愛していようが好いていようが関係なく女を魅了するのである。
 しかも人間は老いる。女は若い方がいいというのは世界中の共通認識で、クロコダイルはナマエに女が群がる度に歯がゆい気持ちになった。絶対に気持ちが離れない、と断言できなくなったからだ。しかしそれをナマエに伝えてここにいろと言うことはクロコダイルのプライドが許さなかった。意地も張れぬほどになったら、クロコダイルはもうおしまいだとさえ考える。


「……クロコダイル」

「……なん、っ」


 思考を中断しナマエの声に反応して顔を上げると、クロコダイルの眼前にはナマエの顔があった。見慣れてなければわからないほどに近付いていて、大きくて厚い手がクロコダイルの後頭部を押さえこむとすぐさま唇が奪われる。獅子と形容されるにふさわしく貪るような荒々しいキスにも慣れているはずなのに、どうしてか今日ばかりはくらくらとさせられた。上を向かされているクロコダイルの口腔の方へと二人分の唾液が流れ込んできて呼吸も荒くなる。ある程度満足がいったのか、ナマエはクロコダイルの口腔をねっとりと舐めあげて唇を離した。クロコダイルは唇についた唾液を拭って、ナマエを見る。


「……なんだ、いきなり」

「いやァ、お前から熱烈な視線を受けたような気がしてな? つい、我慢ができなくなった」


 自分の言い訳がましい言葉を「ははは!」と豪快に笑い飛ばしたナマエは、机を挟んで椅子に座っていたクロコダイルのわきに手を入れ力任せに持ち上げた。一般的な人間よりも大きなクロコダイルがまるで子供のように持ち上げられ、そのことにクロコダイルが不満を漏らすよりも早くナマエは背中と膝の下に腕を通すという抱え方に変更する。──お姫様抱っこ。そう呼ばれる抱え方に変えられて、クロコダイルはナマエの頬を黒い爪できつく抓った。


「クロコダイル、痛いんだが」

「痛くしてんだろうが。下ろせ……仕事の途中だ」

「ふふん、断る」


 何がふふんだと、クロコダイルは頬を抓る力を強めるが、ナマエの方は言うほど痛くないのか反応しなかった。クロコダイルにはナマエが何を考えているのかまるでわからず、少しばかり苛立った。違うことを考えていたとはいえ、クロコダイルは仕事中だ。今日中に終わらせようと思っていたこともある。だというのにナマエはまるでクロコダイルの意見など聞く気がないようで、クロコダイルを抱えたまま執務室にあるソファへと座り込んだ。ナマエの上に横抱きのまま座らせられる形になったクロコダイルは立ち上がろうとして抱きすくめられた。ちらりとナマエの顔を見ると、にやにやと笑顔を作っている。クロコダイルは反対に眉をきつく顰めた。


「何がしたいんだ、お前は」

「んー? わからないか?」

「馬鹿の考えてることなんかわかるわけねェだろ」

「お前のことだよ、クロコダイル」


 そういうことじゃあない、と言おうとして、クロコダイルはその言葉が存外嬉しかったことに気が付いて驚いた。たかだかナマエがそんな言葉を発したくらいで。どれだけ安い女なんだ。ただ純粋に嬉しかったということがプライドを妙に刺激した。ナマエはクロコダイルが驚いたので、「なんだ、お前以外のことを考えていたと思っていたのか?」と心外さを露にしている。


「……お前が、」

「ああ」

「おれのことを考えてんのは、当然だろうが」


 昔はそう思っていたけれど、今はそう思えているとも言えない言葉を不安げに口にしたクロコダイルに、先ほどのキスとはまるで正反対の触れるだけのキスをして「その通りだね」とナマエは笑った。その笑顔がどうにもこうにも子供のころを彷彿とさせる愛らしいものだったから、クロコダイルの胸中は憑き物でも落ちたかのようにすっきりと澄んでいく。ナマエは、変わらないのか。なんだか変わったのが自分だということを思い知らされたような気がして、クロコダイルはちょっとした苛立ちから頭をぐりぐりとナマエの胸へと押し付けた。ナマエは喉の奥で笑って、クロコダイルの髪に顔を埋める。


「こうしていると落ち着く」

「しゃべるな、くすぐってェだろう」

「嫌だね」


 なんだか脳に向かって直接声が発せられているような気分になって、クロコダイルは不思議と心地いいと感じていた。らしくないとは思ったが、ナマエの背中に軽く腕を回したりして抱きつくと、ぴたりとナマエは話すことも動きを止めてしまう。一体どうしたのか。すこし離してから勢いよく頭を上げればナマエの顔を頭で強打できることは想像に難くなかったのでクロコダイルが実行してみると見事に攻撃が決まった。呻くナマエの顔をつかんで、クロコダイルはじろりと見る。


「なんだいったい」

「……いやァ、ほら、なァ?」

「はっきり言え」


 そう言われたナマエはならばというように、顔をつかんでいたクロコダイルの手を取る。そしてゆっくりとクロコダイルをソファに押し倒し「こういうことだ」と首筋にキスを落とした。そこで何故かふと、ミス・オールサンデーの言葉を思い出した。なんなら今夜誘ってみれば? 誘うのとは少し違ったが、結果的には似たようなものだ。首筋に埋められているナマエの頭に手を伸ばして、クロコダイルは唇に笑みを作った。

わたしを思い知れ

嫉妬して、甘えたいけどうまくできない鰐♀をデロンデロンに甘やかす男主@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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