男主×先天性女体化ローです。苦手な方はご注意を!



 身体の弱い女はいらないと捨てられた。「あんたに食わせる余裕なんてないのよ」。貧困の進む北の海では子供を捨てるなんてありがちな話のうちの一つだった。「さむい……」。そしてそのまま死んでしまうのもありがちな話。「おい、大丈夫か!」。けれど救ってくれる手があったのは、稀なことで、おれにとっての父さんは神様でもあったのだった。

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 年頃になった娘の様子がおかしい。思春期と言うやつなのなら仕方ないし、お父さんのパンツと一緒に洗わないでなんて言われることも覚悟の上で生活してきたのだが、そういうあれではない。娘はとても頭がよかったので、おれには入れもしなさそうな学校に行って医者になる勉強をしていた。頑張りすぎて目の下にできた隈は消えなくなってしまったが、それでも十分に可愛いどころかむしろ可愛さが引き立っているくらいだと思う。いつまでもおれにべったりで未だに一緒に寝ようと言ってくるところもすごいかわいい。そこまでいい、そこまではいいんだが、何か、隠しているようで。父親に言えないことなんてそりゃあたくさんあるだろう。女親じゃあないから仕方ない。しかもおれは血の繋がった実の親じゃあないし……実の親より愛しているという自信はあるがだからなんだと言う感じだし……。


「話がある」


 半分死んだ目をしている娘がそう言った。半分目が死んでるのは通常通りなのでそれは構わないのだが、そんなふうに改まって話をされるということは……。おれは思わず覚悟を決める。男か、嫁ぐのか! と思ってしまうのはいささか気が早いかもしれないが、もしかしたら娘はあんなことやそんなことをさせられているのかもしれない。うう……うちの娘になんてことを……!!


「おい、聞いてんのか」

「……おう、すまん、聞いてるぞ」


 既に内心半泣きのおれを見る娘の表情の作り方と口の悪さは完全におれ譲りだと言うのに……! こんな可愛い娘を嫁に出すなんて……! とても悲しい気持ちに支配されていると「おれは海賊になる」という言葉を娘が発した。……海賊? か、海賊? うちの可愛い娘が、


「海賊ゥ!?」

「うるせェな、そう言ってるだろ」

「お、おい、ロー! そんなこと父さんが認めると思ってんのか! 危ねェだろうが!!」


 娘の言葉に断固反対とばかりに胸の前で腕をクロスさせる。わかりやすいバッテンを作っているのに、立ち上がったおれをいなすように娘は近づいてきて、座れと指示してくる。まるで犬を扱うかのようなそのしぐさに頭が痛くなる。確実に似なくていいところまで似てしまった。落ち着こうと思って座ると、娘はおれの足の上に座ってくる。とんだ甘えん坊である、と思ったところで誤魔化されそうな自分がいることに気が付いた。それと同時にこんなに甘えん坊のうちの娘が海賊なんてやれるわけがないという気持ちが強くなった。


「ロー、おれは絶対に認めねェぞ」

「あのなァ、おれはなるっつー宣言をしてんだよ。許可なんて取ってねェし、年齢的にゃ許可を取る必要もない」


 ぐぬぬ……さすがおれの娘、減らず口の叩きっぷりが半端じゃあない。しかも絶妙に筋が通っている。成人をしている娘の将来に口を出すなんてナンセンスだろう。今までだってやりたいと言ったことは何でもさせてきたし、できることなら娘のやりたいようにやらせてやりたいとは思う。……思うが、海賊という稼業に関しては話が別だ。たしかに娘は医療の心得があるし、尚且つ能力者だし、そこらへんの男なんかよりも圧倒的に強いけれど、それでも女の子だ。おれは心配で夜も眠れないどころか、ストレスであっさり死にそうな気さえしている。いや、逆に考えておれが死にそうなのはいい。でも娘が危ない目に遭うのだけは避けたい。可愛い顔をしておれを見てくる娘の髪を撫でる。


「……おれァ、反対だ」

「反対でもだ。ああ、ベボも連れてくぞ。ちなみに出発は明日だ」

「おい! もっと早く相談すべきことだろうが! 今じゃねェだろ!」

「うるせェな、鼓膜破れたらどうすんだ」

「……すまん」


 思わず謝ってしまったが、今謝るべきは果たしておれだったのか? なんかおかしい、と思ったが、娘がおれにぎゅっと抱きついてくるものだからそれに関してはどうでもよくなった。どうやって海賊を諦めさせるか、真剣に考えてみるけれど、うまい方法が思いつかない。明日一日ベッドに縛り付けておいたところでおそらく別の日に出ていくことは確実で……。娘のことを考えたら海賊にさせないことが一番だが、だからと言って家に閉じ込めておくわけにもいくまい。頭が痛い……。悩みすぎて頭を抱えるおれの頭を、娘がやさしい手つきで撫でてくる。


「そんなに心配か」

「当たり前だろうが、お前はおれの娘だぞ」

「……おれは、あんたのことを父親だと思ってない」

「ん? ん!? お、おま、おまえ、今なんて!?」


 今の今までどころか今もおれは可愛い娘だと思っているのに、こいつ、おれのことを父親だと思っていないだと……!? もしかしずっと近所のちょっと親切なおっさんだと思われてたのか……? たしかにおれは血も繋がってないし、近所に住んでるおっさんだったが……いくらなんでもそれは悲しすぎる。どうせならその感情もしまって海賊になってほしかった。いや、海賊になるのはまだ反対だから。認めないからな、おれは絶対。


「落ち込んでんじゃねェよ」

「……可愛い娘に父親じゃねェって言われて心が折れねェわけねェだろ……」

「おい、顔上げろ」

「あ、……ァ?」


 顔を上げたら、ちゅ、と柔らかい何かが触れた。っていうか、え? いや、確実に……口? 娘がおれにちゅー? ちょっと意味が分からなくて、目が点になる。どういうことなの? おれが固まっている間に、娘は軽く深呼吸して、「おれはあんたを父親だと思ってない」と先ほどの言葉を繰り返した。二回言わなくてもわかってる。あんまり言われると心が余計に折れるんだが……、と思ったところで娘がおれの顔を両手で挟むようにしてつかみ、真正面から見据えてくる。


「おれは、ナマエを、男として見てる」


 そしてもう一度おれの口にちゅ、と唇を押し当てた。「……はァ!?」と叫ぶのはいささか遅かったようだ。驚きすぎて目がかっ開く。意味を理解して、思わず娘のことを眺めた。……いや、たしかにおれとお前は血がつながってないけど、ね? なんでこうなった? あまりに見つめ続けたせいか、娘はじわりと顔を赤くして「あんま見んな」と顔をそむけた。その顔が可愛いと思うのは、いつものことなのだけれど、なんだか可愛いと思ってしまうのもいけないことのような気がして口の中が変に乾く。なんで、おれが娘にキスされて緊張しなきゃならないんだ。娘はそっぽを向いたまま、小さくつぶやいた。


「おれのことが心配なら、一緒に着いてきて、ほしい」


 ついていきたいのはやまやまだけれど、今の告白のせいでもごもごとした口から発せたのは「一人で行くな」というイエスともノーとも取れるなんとも言えない言葉だけだった。

ベーゼの呪い

ロー女体化で義理のお父さん×ロー@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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