W7に落ち着いてから二日ほど。おれは元トムズワーカーズに間借りしながら生活していた。食糧とか服とか、全部アイスバーグが持ってきてくれるから何もしないでぼうっと本読んだり、製図とか見せてもらったり、夜は思い出話に花を咲かせたりして久しぶりに人間らしい生活をしてたんだけど……おれは、気が付いてはいけないことに気が付いてしまったんだ。──今のおれ、ヒモと変わらなくないですか? 完全にアイスバーグのヒモ状態だよね? ただでさえ真人間からは程遠い生活を送っていたというのに、こんなん絶対にダメだよね?
 気が付いてしまったからには何か行動せねばというもので、とりあえず風呂上りに鏡を覗き込んでみた。髪を上げているとおそらくバレるので、前髪を下ろしてタオルでも巻いてたらバレないんじゃあないだろうか。もしくはデコに巻く……? なんかW7にいそうな人を装えば……ええんや……。服もアイスバーグが持ってきてくれたTシャツとかゆるい感じのズボンとかサンダルとかあるし、そんな格好をしていればおれだとバレないはず。なんかゾロっぽい格好だな、これ。完全に変装というレベルの格好になったところに、アイスバーグがやってきた。おれを見て固まる。ほんのちょっとも動かない。


「……やはりおかしいか」

「!? ンマー……鷹の目だったのか。知らねェやつがいるかと思ってびっくりした」


 なん……だと……? おれの変装レベルはそこまで高いのか。いや、おれが絶対しない格好をしてるからだろう。そこらへんにいそうなにいちゃんと大して変わらない格好だもんな。しげしげと見られるとすこしばかり恥ずかしい。


「で? どうしてまたそんな格好を?」

「……お前に世話になりっぱなしだろう」

「気にするようなことでもねェだろ。って、それでどうしてそうなったんだ?」

「おれが七武海だとバレたら面倒ごとだ……しかしこのまま何もしないのはヒモと同じだろう」

「ヒモなァ…………ヒモ!?」


 ものすごく大きく目を見開いて驚いたかと思うと、アイスバーグは口元を隠して目線をおれから外した。この気まずい空気感は言われて初めて気が付いた、ということなのだろう。そりゃあ嫌だわな、自分より年上のおっさんをヒモとして飼ってたなんてそんなのあんまりだよな。……ん? ていうかもしかして、おれの言い方がまずかっただけ? ヒモって言い方以外にもなんかあったよな、絶対。悪いことしちゃったなあ……。
 おれが気まずくなっていると、アイスバーグはごほんと一つ咳払いをした。なんとなく先ほどよりも血色がいい気がしたが、怒っているのとは違う気がする。一度目を閉じたアイスバーグはおれを見た後、またすぐに視線を逸らした。まだ気まずいようだ。咳払いの効果は低い。


「あー、とにかく、気を使わせたみたいで悪いな」

「いや、こっちこそ気が回らなくて悪い」

「……それで、その変装もどきでどうするつもりだ?」

「……賞金稼ぎか、漁?」


 もともと本職は漁だし、魚を取るのはかなり得意だ。陸上で捕るのも得意なのだが、この島にはそういう動物はいなさそうだし、海に出ての漁だろう。賞金稼ぎも船を直しに来たやつ以外なら経済に影響を与えるだとかそんな問題なさそうだし、おれにできることと言ったらそんなものだろう。アイスバーグは一瞬きょとんとしたものの、すぐにうなずいた。


「賞金稼ぎは、妥当なのかもしれねェな。武器はどうするんだ? それ背負ってたら一発でバレるだろ」


 アイスバーグが視線を向けた先にあるのは夜だ。当然、夜なんて背負っていたら即バレの可能性がある。気が付かない馬鹿とかもいるけど、おれのトレードマークでもある夜を背負って街の中を歩くつもりはない。「名の通った相手でもなければ素手で十分だ」。七武海とか四皇とか三大将とか、そういうんじゃなければね。まだ超新星の彼らもここにはいないことだし、まず素手でもおれが危険な目に合うことはないだろう。それに、新しい刀を買うのもなァ……浮気してるみたいで悪いし。
 剣士であるおれが武器を持たなくてもいいと言ったことが不安なのか、アイスバーグは訝しげな目線を送ってくる。そんな顔されても困るんだが。……ていうか心配してくれてるのか、本当にいいやつなァ、アイスバーグは。思わず唇が緩む。


「心配せずともいい。これでも七武海だ」


 おれがそう言い切れば、アイスバーグはなんとも言えぬ表情で笑みを作った。それから「ならいい。無理はするなよ」とおれの意見を受け入れてくれたようだった。それならさっそく外に出て、適当に何人か狩ってくるか。思って外に出ようとしたおれを、アイスバーグが引き止める。


「偽名は考えてあるのか?」

「偽名? ……ああ、海軍の屯所で聞かれるかもしれんからな」


 賞金首を捕まえて持っていけば、名前を聞かれる可能性もある。何も考えずに出て聞かれたときにキョドったらバレるかもしれない……そんなダサいバレ方はごめんだ。とはいえ、偽名ね……何にも思いつかないよな。アイスバーグにセンスを疑われるかもしれないと思うと、ハンドルネームを決めるように簡単には決められない。下手したら中二ネームになってしまうし、とっかかりがないと発展させようもないというか……。おれが悩んでいると、アイスバーグが笑った。


「ンマー、そこまで真剣に悩むことはねェだろ。そんなもん適当に決めりゃあいいんだ。お前はミホークで鷹の目と呼ばれてんだから、そうだな、鷲……イーグルは、直球過ぎるが、イーグとかグールとかグリィとか……ま、そこらへんでいいんじゃねェか?」


 アイスバーグさん、一個死体が混ざってましたよ。グールってお前……そんな名前つけたら子供いじめられるぞ。悪意なくいじめられるぞ、本当に。嫌がらせではないのだろうが、だからこそちょっと怖かった。けれど自分で考えるのは面倒だし変なものになりそうだし、アイスバーグの意見はそのまま採用させてもらうことにしよう。
 肯定の意をこめて頷けば、「じゃあイーグでいいか?」と聞いてくれたので、もう一度うなずいておいた。すこしだけゲームで名前を決めたときに聞いてくる導入画面のような言葉だな、と思った。


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