なんでこうなった……? 身長というか体格の関係上からギリギリ人間サイズで悪どい顔のクロコダイルと隣になり、目の前にはどう見ても人外サイズのドフラミンゴ。本来おれに用があると言っていたはずのマイエンジェルおつるさんが一番遠いってどういうことなの。お座敷の席だからこうなるのも仕方ないのかもしれないけど! おれはおつるさんとご飯食べに来たんであって、こいつらと飯を食いに来たわけじゃあない。
 やってられなくて注文したものは全部酒だ。しかも明らかに頼みすぎって量。マリージョアに来るまでの船の中で色々と振る舞われたから特に腹は減っていないし、やけ酒でもしなけりゃやってられない。驚く二人とは別に、おつるさんが呆れたような顔をしておれを見た。


「あんた、そんなことしてたら身体壊すよ」

「心配には及ばん」


 ミホークとして生まれてからはほとんど酔うようなことはないし、肝機能も上々だ。一度だけ田舎で酔ったときは海に飛び込んで海王類を三体ほど仕留めてゲラゲラ笑ってただけだし、変なことをしでかすことはさすがにないと思う。……多分。ていうか酔うほど飲まないから! 年に一度は検診してるし大丈夫だから!
 周りにドフラミンゴもクロコダイルもいないのだ、と言い聞かせながら勢いよく酒を消費していく。美味い! が、たまには田舎のどぎっつい地酒を呑みたくなる。あれは最早酒というよりアルコールで、身体が熱くなるというよりは喉が焼けるという感じだ。きっととても身体に悪いものだと思う。そんなことを考えたところで目の前から向けられる強烈な視線は消えたりしない。


「……」

「……」


 うわあ……無言で凝視してくるよこいつ……意味がわかんねえけどこわい……。違う、意味がわからないから怖いのだ。その視線をどうにか誤魔化したくて酒を呑むスピードが上がっていく。それでも見られ続けているから、どうにかしてくれ! と内心で叫んでみた。


「おい、“鷹の目”」

「……なんだ」

「その酒はそんなに美味ェのか?」


 おれの願いが通じたのか、クロコダイルが話しかけてきてくれた。もしかしたらクロコダイルはエスパー!? まあ、あり得るならエスパーじゃなくて見聞色の覇気だろうけど。
 酒のことが気になるみたいだったので、おれは呑んでいる酒をそのまま差し出す。おれはそこそこ美味いと思うけれど、こればっかりは好みだ。軽く驚いてからクロコダイルは受け取ろうとして──その酒はかっさらわれた。……はい? 奪われた酒瓶はドフラミンゴの手の中にあった。一気にクロコダイルの機嫌が悪くなる。


「おい、!」


 クロコダイルがそれはおれのだぞ、的なことを言おうとしたと思われる瞬間、ドフラミンゴが一気に喉に流し込んだ。あ。「!? げっほ!!」……見事にドフラミンゴが咽た。そのままごほごほと咽ているところを見ると、どうやらドフラミンゴには飲みなれないものだったらしい。まあ、度数も高めで味も結構特徴的だしね……泡盛が一番近いだろうか。飲みなれない人には生臭いとか言われることもあるから、ドフラミンゴにはダメだったのだろう。クロコダイルがおれの横でざまあみろってな顔をしているのは見なかったことにして、仕方ないので水を入れてドフラミンゴに差し出してやる。


「慣れぬのに一気に飲み干したからだ、馬鹿者」


 どうにか咳の落ち着いたドフラミンゴがおれから水を奪って飲み干した。だん、とコップを置くとドフラミンゴは何故かおれを見て驚く。え、さっきからなんなのこの子。意味が全然わからない……。
 そのままドフラミンゴはじっとおれのことを見てくるし、クロコダイルはちょっとずつまた機嫌が悪くなってきているし、ものすごく居たたまれない空間と化している。なんでおつるさん普通に飯食ってんの? さっさとこの空間から逃げ出すために、おれは呼び出したおつるさんに目を向けた。


「……おれに用とは一体なんだ」

「ああ、そういえばそうだったね」


 こんなところにおれを連れてきておいて、当初の目的を忘れるなんておつるさんじゃなかったら張っ倒してるところだ。いや、センゴクさんとかでも張っ倒さないけどもね? 勘弁してほしいよまったく。
 おつるさんは後ろから紙を何十枚か出してこちらに渡してくる。なんだこれ、と思ったら、手配書だった。知ってる顔やら知らない顔やらがたくさんある。これがなんだ、と視線を向けれる。


「最近見なくなった海賊のリストさ。あんたが沈めちまったやつがいるんじゃないかと思ってね」


 なるほど……おれが報告してないから調べたいってことか。っていうか報告義務とかあったの? 結構七武海やってるのにはじめて知ったんだけど。そういう大事なことは先に教えてほしい。
 ぱらぱらと手配書をめくって自分が倒したと思われる顔を引っこ抜いていく。五十枚中三十六枚は見知った顔だった。さらにその中でもお魚の餌になったと思われる連中を引っこ抜く。三十六枚中、二十五枚。まず知らないやつらの十四枚を突き返す。


「こいつらは知らん。こいつらは陸上で突っかかってきたから切り伏せた、生死までは知らんな。そしてこいつらは海の底だ」


 ばさりと三分割しておつるさんに戻すと、「そうかい、ありがとね」と言って受け取ってくれた。こうして見ると殺しちゃってる連中が一番多いって本当どうなの? 自分のことながらドン引き。相手は海賊だけと言えどおれもすごい悪党だったね! 完全に海賊! しかも恨みもなんもなく目についたからとか我ながら凶悪だわ。ま、世間の認識通りになっただけだね……うわあ、自覚つれェ! センゴクさんに海のクズどもとか言われちゃう!


「用が済んだならおれは行く」


 地味に落ち込んだおれはさっさとこの場をあとにすることにした。ドフラミンゴがおれに何か言いたそうな顔をしてたけどスルー。残ったやつらが好きなだけ飲み食いできるように少し多めに支払いを済ませて店を後にした。


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