「おお〜うい! ミホークぅ!」

「ああ? なんかァおうたか、じいちゃん」


 カームベルトにあるとある島、とある田舎町。自給自足が当然で、他との交流がほとんどない本当に田舎の小さな町である。年寄りと小さな子供、働き盛りはすこし少な目。電気が通ってないし、言葉の訛りも結構ひどいし、特産なんてものもない。そんな町で知り合いの爺様がおれのところを走り寄ってきた。実は生まれ変わりとか奇妙な体験をしているせいか、初めは都会と田舎のギャップに悩まされたおれだが、いまでは狩猟の得意な若者として皆から信頼されているのでなにか相談だろうか。爺様は何かの紙を持って走り寄ってきたかと思うと、その紙をおれの眼前に突き付けた。


「じいちゃん近すぎじゃ見えん」

「大変じゃあ!」

「わかった、わかったけえ離してくれんか」


 何が大変なんだかまったく、と手を離してもらって思いっきり噴き出した。手配書。──おれの手配書だった。


「はあああああああ!? なんじゃあこれ何が起きよったん!? なんね!? はあ!?」


 おれはたしかに目つきが悪い。この地方特有の金色の目のせいでそれがかなり強調されているし、目つきが悪いからミホークなんて名前を付けられたわけだが、いや、だからっておれが何をした。おれはこう見えても善良な若者だ。山に入ってイノシシやクマを狩るし、海に潜って海王類を狩ることもあるし、やってきた海賊たちを倒してお宝をいただくこともあるが、商船や海軍を襲ったことなんて当然ない。なんでおれが賞金首なんかに! しかも見たこともないような額がついている。この田舎町では一生見る機会などないであろう値段だ。億越えしてる意味が分からない。


「ん……? ジュラキュール、ミホーク……?」


 手配書の下に書かれている名前には、そう書かれている。あれ、これ…………ジュラキュール地方の、ミホーク……ってこと? 田舎だから名字いらないくらい人間が少ないおれにとりあえずつけたのか? ……ていうか、聞き覚えがあるような名前なんだけど……え、なに、えええ? もしかしてこれって……。


「うわああああああああああ!! おれがミホークなん!? そういうことになっちょん!?」

「お、落ちつくんじゃあ! 何かの間違いじゃろ!?」

「そうじゃなかったらおれば人生終わりじゃあ!」


 ワンピースの世界だって今知ったぞ! なにこれ! 鷹の目とか書いてあんじゃん……いつからおれが七武海とかいうものになると決まっていたの? 全然気が付かなかったからヤッター格好いい名前もらったとか幼少期に喜んだし、ちょっとおめかしとかして出かけたときの写真を取られる羽目になるだなんて……! 恥ずかしいわ! ていうかさ、なんなんですか! 本当に! 大海賊時代きてないから気付かなかったっつーの……。


「だ、大丈夫じゃ、ミホーク。こんな町誰も来ん! わしらが守っちゃるけえ、」

「……ええんじゃ、億越えになったら、こん町もバレる……おれぁ出てくよ……」

「ミホーク……!」


 ・
 ・
 ・


 ということがあってから二十年以上経っておれは今七武海なんてものをやっている。結局海に出ても田舎者のおれは都会人の中で気の合う仲間なんて見つかるはずもなく、だからと言って悪い子にも成りきれず海賊船しか襲ってこなかったおれは、気がついたら七武海にならないかと誘われていたのであった。そのときおれ海賊じゃないんですよ、と手配書を処分してもらおうと思ったのだが、そのときにはとんでもない額になっていて今更無理とのことでした〜。残念でした! ……じゃねえよ! やっと田舎に帰れると思ったおれの純真返して!
 そのあとは仕方なく七武海に加入してのろのろやっている。おれが実は悪意もなにもない人間だということをセンゴクさんとかガープさんとかおつるさんあたりは知っているのでよしとしよう。たまにお茶とか誘ってくれるんだぜ……田舎のお年寄り思い出して泣きたくなるわ。


「フッフッフ、珍しいじゃねェか“鷹の目”。明日は槍でも降るのか?」

「……」


 というわけでおれは七武海の会議に出席なうだ。今日の出席者は議題が重大なものだったらしく、おれ以外に四人も集まっていて会議場の雰囲気もぴりぴりとしている。ジンベエにサー・クロコダイル、バーソロミュー・くま、そしておれに声をかけてきたドンキホーテ・ドフラミンゴだ。
 おれとは違いガチで七武海になったようなやつは、それだけ実力と実績があるということで、すなわち彼らと仲良くすると言うことは敵を増やす行為になりかねない。だからおれはあまり仲良くしたくなくて無視を決め込んでいる。センゴクさんとおつるさんもいるし、さすがにやり合おうとは思わないだろう。つーかね、おれだって好きで出席してないわけじゃないのよ。航海術なんてスキルを持ってないおれは、基本的に航海という名の漂流サバイバル生活をしているだけだから、招集されても来れないってだけで! だから本当に重大なときだけは海軍から迎えが来るのである。今日もそうでした、ご迷惑をかけて本当に申し訳ないです。


「おいおい、無視すんじゃねェよ。友好的に行こうぜ」


 会議中にどうでもいい話をするとか、もうチンピラっていやねー。そもそも口を開くと訛りが出るかもしれないからなるべく誰とも話したくないんだよなあ……そんなことやってたら声出なくなりそうなものだが、田舎がバレたらそれを聞き付けたどこぞの誰が仕返しというか腹いせにあの町が襲われかねないし……今は海軍の駐屯所もできたらしいから、まあ、大丈夫だとは思うけど。
 なのでピンクのもふもふはオールスルー。席も遠いし大丈夫だろう。そもそもおれ、ドフラミンゴ苦手なんだよ……普通の人間の倍くらいのでかさだし、なに考えてるかわかんないし、一番まともな人間じゃなさそうだからなァ……くまもなに考えてるかわかんないし、人間サイズじゃないけどそれでも害を及ぼさないしなあ。クロコダイルとかハンコックとか、モリアとかもまだまともだと思う。一番まともなのはジンベエだろうけど。ていうかハンコックとか漫画でしか見たことないけどねー。まだ一回も会議出席してないんじゃないのあの子。それともおれが出てないときには出てるのかな。一回くらいは会ってみたい、どれくらい美人なのだろうか、“女帝”。


「……というわけで、以上だ」


 おれが煩悩に支配されている間にセンゴクさんがそう言って会議は終了する。おれはピンクのもふもふにちょっかいを出される前にさっさとこの場を辞するつもりで立ち上がった。ら、すごい視線を集めた。七武海になってからそういうことにも慣れたもので、視線を無視して会議室を出ようと足をドアへ向けたら、


「ちょっとおいで、ミホーク」

「……」


 おつるさんに呼ばれた。振り返ると手招きをしているおつるさんの姿と、おれを見てくる他の連中が目に入る。お前ら解散なんだからさっさと帰ればいいのに。年寄りには優しくしないといけないので言われた通りにおつるさんのところまでいくと、柔和な笑みを向けられた。年を取っても綺麗な人というものはいるものだと思った。


「あんたに聞きたいことがあるんだ。このあと時間があるなら食事にでも行かないかい? 勿論、お代はこっちが持つ」

「……食事は構わんが、おれは女に金を払わせる趣味はない」

「紳士なあんたならそう言うと思ったよ」


 え、なに? それって嵌められたの? 元々払う気なんかなかったのよ、ってこと?
 ふふふ、と笑うおつるさんの底が知れなくて一人内心でざわついていたおれだが、おつるさんが立ち上がろうとしたので手を差し出した。おつるさんはおれの手を取って椅子から立ち上がる。エスコートするような場所でもないので手を離せば、おつるさんはゆっくりとした足取りで先に歩き出した。おれも歩調を合わせながらその背を追った。本当、食えない人だ。


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