あ、おれもしかして黒ひげじゃね? ワンピースの、汚い系のおっさんの、あいつじゃね? そうやって気が付いたのはいささか遅かったように思える。おれというやつは死ぬ前から頭空っぽで、今が楽しきゃあなんでもいいというタイプだった。それはうっかり酒を飲みすぎて足を滑らせて頭を打って死んだあと加速したらしく、転生してからも完全にすっからかんの能天気に生きてきてしまったのだ。白ひげだなんて呼ばれる親父に誘われて船に乗ったときも全然気が付かなかったし、他のやつらが加入したときもまったく気が付かなかったのだが、さすがにね、おれもね、ロジャーが来たらわかるわ。ここ、ワンピースの世界だ。 「おう、オメーおれの船に乗らねえか?」 「いや、このマーク見えてるよな、おっさん」 久しぶりに停泊して陸で楽しんでいたというのに、おれの身体にある白ひげのマークを見て鬱陶しく構ってきた海兵をさくっと倒したところを見られていたらしい。んで、そこに現れた男……どうやらロジャーのようだった。飽きるほど見たアニメのオープニングにそっくりの人間がいて、ロジャーだと名乗ったらいくらおれでもわかるわ。名前だけは聞いてたけどゴール・D・ロジャーだったから気がつかんかった。おれってやっぱアホだな。そういや血縁の方の父親がティーチみたいなああいうビール腹の汚いおっさんだったな。……遺伝怖いし、太らないように気を付けた方がいいだろうか? 「えー、いいじゃねえか! おれの船来いよ!」 「行かねえよ! アホか! おれは白ひげの一員なの! わかるかよおっさん!」 「今から抜ければいいじゃねーかよ坊主!」 「話聞けよアホ!」 こいつの頭はおれよりもすっからかんなのかもしれない。いくら有名なロジャー海賊団だって、同じくらい有名な白ひげの仲間に手を出したら相当やばいだろうに。その意味を理解できていないというのだろうか。いや、何度か小競り合いしてるだろうし、そんなこと気にしてないだけのすっからかんだ。おれと一緒だ。おれだって欲しいものがあったら天竜人からだって奪って見せるだろう。ま、親父に迷惑かけるからやらねえけど! しかし何度言ってもわからないおっさんはおれの腕をつかんで離さない。なんだこいつ。そこまで気に入る要素なかったろ。意味がわからないにもほどがあるぞ。 「あのなあ、おれは親父の船から降りる気はねえの。ここであんたとやり合う気はねえし、もうやめてくれって」 今生の自分の父親よりも年上であろう男にこうしてすがられるのはなんとも言えない気持ちにさせられる。というかおれまだ十代前半だしさ、こんなふうにやってたら変態じゃんこいつ。別におれがどうこうなるわけじゃねーからいいけどさ。あ、でもおれが被害者だと思われるのは癪だなー。おれ強いのに! 「いや! お前はおれの船のマスコットにする!」 「マジで意味わかんねえこと言ってんじゃねーぞおっさん!」 「そのすきっぱ可愛いじゃねえか!」 「男に可愛いとか言ってんじゃねーぞ! つーかすきっぱに関してはやめろ! 気にしてんだから!」 口を開かなかったらそこそこ見れる顔だと思うのだが、口を開くと折れた歯がなくて一気に間抜けっぽくなるので若いことも手伝って威厳という威厳はかけらもない。そんなおれのすきっぱに関して触れていいのは親父だけだ。 そうして揉めているうちに、親父が直々に探しに来てくれてロジャーと揉めに揉めてそこら一帯が更地になったのはいい思い出ということにしておこう。 |