結局、七武海なるに当たっての条件は、女ヶ島への半径五キロ以内の立ち入りを禁ずるというものと略奪の許可くらいなものだった。おれを、というよりアマゾン・リリーの皇帝を七武海に引き入れる条件として安いと言えば安いが、ベガパンクのような優秀な研究員を二、三人引き抜くための伝にできればいいと思って受託した。
 世界政府は嫌いだが研究者や開発者は必要であり、国防のため欲しいのは一過性の能力者よりも永続的な科学力だ。この際シーザー・クラウンでもいいかと妥協したくなるのだが、今はまだ普通にパンクハザードで働いているのだろうし、どちらにしろあいつはちょっとほしい感じの研究者とは違うんだよな……人工悪魔の実もガスも欲しいわけではない。大量殺戮兵器は結構だし、マリージョアでやってくれと切に願うものなのだが、おれが欲しいのは自爆に使えるものじゃなく外に向けて使える近代兵器だ。自然の要塞でなく本物の要塞とするのには、やはりレーザーを開発したり、人間兵器と言われるあれを作り出すベガパンクがほしい。作ってほしいものは決まっているのだから、案だけ出してベガパンクと共同開発というのも捨てがたい。しかし結局政府に女ヶ島の軍備状況がバレるのは好ましくない。しかも敵は政府だけではない。いずれ凪の帯を越える技術は流出し、この島へ外部のものが訪れることだろう。
 手っ取り早いのは女の研究者を引き入れて科学的な水準を上げることだが……余所者を好かないのはおれも同じだ。男子禁制を謳っているが女とて例外ではない。となればもう一つ考えられる安易な方法は、武器そのものの買い入れだ。しかし大型兵器となれば世界政府の目に余るものになりかねないし、第一仕入れ先はどうするつもりだ。ドンキホーテ・ドフラミンゴか? まだ七武海にもなっていない男を当てにしてどうする。それにアレは政府の上と深く繋がっているようになるのだろう。情報が漏れる可能性があるんじゃあダメだ。


『……あとは、古代兵器か』


 プルトンとなんだっけ、ネプチューン? あ、それ魚人島の王様のことか。古代兵器はポセイドンだ。あとウラヌス……だったか? 神様の名前だったような気はする。正直あまり覚えていないが、おれが所在を理解しているのはポセイドンだけだ。海王類と話せるあの姫をうちの国に招き入れられれば、ここは凪の帯なので美味しいのだがあれだって一過性。しかもあの優しい性格の少女ではまともに襲わせてはくれないことだろう。欲しいのはそんなもんじゃあない。せめて遺伝でもできれば、姫とどうにか婚姻をと躍起になって孕ませるのもいいが、それもほとんど無意味だ。あ〜クッソ。


『サロメと結婚したいサロメサロメサロメ』

『現実逃避はよくないよハンコック』

『全くもってその通りだよ、言い返せない』


 サロメにしな垂れかかりながら、色々と考えてみる。それとも逆転の発想こそが必要か……門戸を開くべきなのだろうか。今までのしきたりを変え、この国に? ──いや女たちならばまだしも、この島に男どもを招くなどということはできない。この国の女たちはそこらの人間たちよりは強い。しかし四皇や他の七武海連中と比較したとき、どれほど持つ? 戦いきれるのはおそらくおれだけだ。ならば美しい女たちは、蹂躙し凌辱されることだろう。まずそのためには必要なのは意識の改革や外の常識ということになりかねない。しかしそれでおれたちの背中の意味を理解されてしまっては意味がない。国も大事だが、あくまで一番ではないのだ。優先順位を間違えてはならない。


「姉さま、すこし休憩したら?」

「そうよ、何を悩んでるのかはわからないけれど、無理をしてはダメよ」

「ソニア、マリー……」


 わざわざお茶を入れてきてくれたらしい妹たちに頬が緩む。なんと心優しい妹たちだろうか。おれはとても幸せな……兄? だ。しかし笑みをこぼしてしまったせいか、妹たちがくらりと体勢を崩す。慌てて立ち上がり身体を支えるが、大丈夫だと言われてすぐに離れてしまった。顔は完全にそむけられている。理由はおれが美しすぎるからだろう。さすがにこの身体で十八年も生きてりゃあわかる。今はただ綺麗すぎるこの顔が憎い……。唇を噛み締めて震えていると妹たちが慰めてくれる。


「なんじゃ、かわいい妹たちを前に、わらわはでれでれすることも出来ぬと言うのか……!」

「可愛いだなんて……! 姉さまの方がとても!」

「愛らしいわ!」

「二人とも……!」


 褒められて嬉しくなったおれは思わず笑ってしまった。腰を抜かしたように妹たちの身体から力が抜けて床にへたり込む。あー……ああ……なんか、ごめんな。おれの顔は凶器とたいして変わらないようだ。ため息をついても妹たちは顔をそらした。……そのうち、紙袋で顔面を隠す日も近いかもしれない。


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