くっつき心地(5000)視点違い後編


「おーい、鷹の目ぇ、呑んでっかァ!!」

「呑んでいる。その酒瓶を傾けるな」


 始まって三時間、軽く酔いも回り始めたおれは、そろそろ頃合いかなと完全に酔ったふりをしてミホークに絡み始める。幸いにしておれは顔が赤くなってもそこまでは思考力は落ちないので、ミホークに構ってもらえるように面倒臭い絡み方をする。頭の上に酒瓶を持っていけばおれの腕をつかんで止めた。そのままでいたら普通に下ろされてすぐに手を離し酒に戻ってしまうので、ミホークの口に向かってその酒瓶を押し進めてみれば、鬱陶しそうな顔をしてくる。それが気にくわなくてもっと押し進めてみた。


「おら呑め! おれの酒を呑めー!」

「その勢いで来られたら酒瓶と歯が衝突するだろうが馬鹿者」

「あー? たしかに!」


 勢いに任せてやったらたしかにぶつかる。ということはおれが酌をする分には飲むということだ。「ほら! 飲め!」と差し出せば、ミホークはおれから酒瓶を奪って飲み干した。この年になって間接キスに動揺するようなことはないが、寧ろ直接したくなるというか、なんというか。
 そのままミホークの横で馬鹿騒ぎして、疲れたからミホークの足を借りて枕にさせてもらう。うーん、硬い。ミホークの足じゃなかったら絶対に借りようとは思わないくらい枕には向いていなかった。膝枕はやっぱ女の方がいい、けど、ミホークの足は別だ。寝づらいのとは反対に気分がいい。そんなふうにごろごろしていたらちょっと眠くなってきた。目を閉じかけたおれの耳に、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「あー、悪いが、寝室まで運んでやってくれねェか?」

「……わかった」


 さすが相棒、よくわかっている。ミホークは仕方がないと言った声を出して、おれを脇腹の横に抱えて運び始めた。あー、おれってば結局荷物運ぶのと一緒かよ。別にお姫様だっこをされたいわけではないが、もうすこし人間らしい運び方をしてほしいとは思う。
 寝室へと連れていかれるのは、実は一度や二度のことではない。本気で酔っぱらったときや今回のように小休憩のつもりで膝を借りたとき、こうしてミホークはおれを運んでくれる。何でか知らないがミホークの膝を借りると眠くなるから仕方がない。人の体温というものが心地よいからかもしれない。ただ運んでくれるのだが、一向に関係が進展することはなかった。
 気が付いたらおれはベッドに下ろされていた。壊れ物を扱うみたいに優しくベッドに転がされたから、一瞬気が付かなかった。若干眠気のあるぼんやりとした目でミホークを見る。ミホークは少しも酔ったように見えなかった。一回酔い潰してみてェなァ、べろべろに酔ったらやりたい放題だし。まあ、ミホークが酔わなくてもおれが酔っているのだから、優しくしてもらえるし、いつか見れればいいか。


「あー……? あー……鷹の目? ここ、」

「お前の部屋だ」


 おう、知ってる。いつもの通りだとこのままミホークに放っておかれてしまう上、おれが寝ている間に帰るというコンボをかましてくるだろう。せっかく会えたのにそんなの寂しいじゃねェか。まだ一緒にいたい。まだ話したりない。もう少し欲張ったっていいだろ?


「……そうか、鷹の目ぇ」

「なんだ」

「脱がしてくれー」

「はあ?」


 今ミホークが、はあ? って言った。なんだそれ、可愛いじゃねェかよ。感情がはっきりとわかるだなんていう珍しい声を聞けたおれはちょっと機嫌がよくなって口が笑う。もしかしたらこのまま脱がしてもらえるかも、なんて「あーつーいー」と駄々をこねてみたらミホークが刀に手をかけてビクッとする。しかしそれはおれに向かって抜くためではなく、邪魔だと判断して下ろしただけのようだった。
 刀を下ろしたミホークはおれに近寄ってきて服のボタンに手をかける。脱がしてくれ、なんて自分から言ったくせにひどい緊張に襲われた。わかってる、こりゃあただの介護みてェなんもんだ。……わかってんだが、まるで、これからヤっちまうみたいだと脳が錯覚する。ボタンを全部外し終わったミホークはおれを起き上がらせて、シャツを脱がしにかかる。視線がおれの身体に向かっていてぞくぞくした。素肌と素肌が触れ合ったのはほんの一瞬だったけれど、おれはたまらなくなって首に腕を絡めミホークを引き寄せる。そしてそのまま勢いで頬にキスをした。


「ありがとなァ」

「……やめろ赤髪、気色悪い」

「んだと、おれのキッスを受け入れられねェってか! やめてやらん!」


 これくらいなら許されるはず。そう思ったのにミホークが露骨に嫌な顔をするものだから、おれはちょっとムカついて顔面中に唇を押し付ける。ミホークは呆れたのか真顔になってしまったが、文句を言わないからつい、口にまでキスをしてしまった。存外、柔らかい。それでもミホークは怒鳴り散らすこともなく、抵抗するわけでもなく、ため息をついただけだった。だから、いいか、って思っちまった。
 唇が開いたわずかな隙間に舌を突っ込んだ。ミホークの目がいつもよりも大きく見開かれて驚いていることがわかった。おれが舌を押し進めてキスを激しくしても反応はしてくれないかった。それでも、拒絶はしてこない。酔っぱらいのすることだから仕方ないと思われているのかもしれない。ミホークはそういうやつだ。優しいと言えば、優しい。鈍いとも言える。でもそんなこと考えていられないくらい夢中になってしまった。だって、──見られてる。おれの好きな目がおれだけ見てる。きっとミホークは今、おれのことしか考えてない。そう思うと腹の奥がじいんと熱を持った。ああ、やば、勃つ。
 どうにか気合いで押し留め、これ以上はやばいと踏んで唇を離すことにした。けれどおれの口の中はミホークとおれの二人分の唾液でいっぱいだ。吐き出すのなんか勿体なくて喉の奥に流し込む。こくん。それから唇を離せば、ミホークは勢いよくおれの顔をシーツで拭った。いてェ! 抗議をしようにも声は「んぐっ」というような呻きにしかならない。しばらくしたらシーツを退かされた。自分の口を拭いたんじゃないから嫌がってどうのこうのというわけではないと思うが、それでも雰囲気をぶち壊しにしてくれたミホークに少し不満を抱く。


「んだよぉ、」

「それはこちらの台詞だ、さっさと寝ろ」

「えー……」

「えーじゃない、いいから寝ろ」


 肩を押されてベッドに沈められる。それだけ聞けばなにか意味を勘繰りたくなるというのに、まったくそういう意味はない。……まあ、怒られなかっただけ、嫌われなかっただけでマシなのだろう。そんなことを考えていれば急に視界を奪われた。目蓋を降ろさせたそれがミホークの手だとすぐにわかって、逃げられないようにその手をつかむ。ミホークはため息をついたが抵抗はしなかった。振りほどくことなんて簡単だろうに……寝るまでこうしてるつもりかよ。馬鹿。気もないくせにそんなことをしてひどいやつだ、ひどく、優しいだけだけど。
 そこまでされたら寝ないわけにもいかなくなって、素直に意識を手離すことにしてぼうっとする。ミホークの手が心地好くて案外早く眠くなってきた。でも起きたときにはいねェんだろうな、とセンチメンタルな気持ちに陥っていたら、思わず「ミホーク、」と呟いていた。口に出すことのない彼の名前。寝言だ、だから見逃せ。


「なんだ、シャンクス」


 眠りかけていた意識が覚醒してしまう。え、ちょ、いま、おれの名前呼んだ。どんな顔でおれの名前呼んだのかすげェ気になったけれど生憎ミホークの手で遮られていてそんなことはわからない。……っていうか、今ので勃っちまった。畜生、寝れねェだろばぁーか。


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