召喚された五次槍の秘めた想い



『令呪を以て命ず。マスターである私とそのサーヴァントであるソルジャーの相互間における、魔力の供給、呼び掛けに始まる意思疎通、状態と状況の感覚伝達を除いた、両者の個人的感情・思考の伝心に関してのパスは即刻切断・分離されよ』

――あの時を思い出しては、あの言葉の羅列を思い出しては、歯痒さと愛しさの狭間に足を踏み入れる。



娘が泣いているのを見るのは何せ初めてだった。ギョッとして寄っていき、どうしたのだと顔を覗き込んで問い掛けるも、漣は何も、言いやしない。その間にもボロボロと好き勝手なように零れていく涙。少しばかり安心してしまったのは、まぁ、本当の事だ。この少女はいつだって凛として立ち、伸びる背筋は何処か眩しい程だった。娘は常に、気高く在ったから。その姿が心地好くて、我が儘に振る舞う様など1つの好ましさに変わっていったくらいには、果ての果てまでも共に行こうと、そう思わせて。
…そんな少女が、泣いていた。柔らかい頬を両手で包んで顔を上げさせる。嫌味の無い、くすんだ青の奥には何も無い。空っぽの瞳に映り込む、上から覗く男の顔が思いの外真剣なもので、嗚呼と1つ苦笑してしまう。そりゃあそうだろうよな、何たってこいつが泣いているのだから。



「…おいおい、珍しいもんじゃねぇか嬢ちゃん。お前が泣くなんざよ」

「――くー、」

「、!」



小さく此方の名を口にした後で、途端崩れた表情に不覚にも一瞬息を飲んだ。腹の下が疼くような情動だ。目元に吸い付いてしまいそうになったのを留め、代わりに、抱き上げる。何だってこう軽いものか。そして、柔らかい。これまで何度も同じようにしてきたにも拘わらず、ここに来てようやく、嗚呼この子供も女なのだなと、それを実感した。

漣がしがみ付いてくる。どうしてそうも必死に縋る。そんな事などしなくとも決して放しやしないから、お前が望む限りいつまでもこうして抱いていてやるから。…などとは、当然言えまい。
だがいつか、いつの日か。この胸の内に腹を括れたのなら。その時まだ己が傍に居ていられたのであれば、あぁ、そうしよう。愛らしいこの娘に、共に在りたいこの少女に。伝えようではないか。お前の事を     と。





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