飛竜



一面の青が駆け抜けていく、水面を竜が翔け抜けていく。ベージュの丸いフォルムが、海面上へ水の尾を引かせていた。それの翼と言えば体躯に比べ小さくも思えるのだが、いずれにせよ生み出し操る力は途方も無く強大である。カイリューとはそういうポケモンだ。疾く疾く翔け抜け、海と空を滑るように駆け抜ける。その身が生み出す力の余りの強大さ故に時折破壊の神の化身とさえ呼ばれ、多くの青の覇者かのようにも偉大なのであった。
そもそもの話、少女が首の付け根辺りに跨るこのカイリュー。他の同種族個体よりも幾分か大きく、力も強いというのが実際であるのだが。


ピジョット、というポケモン種族が存在する。彼らは飛ぶ事が存在意義であるかのように、とても速く、空を行った。その誇るべきが音速。ピジョットは唯一、類い稀なる速さを持つポケモンなのである。
――しかし、惜しき哉。カイリューの存在だ。この種族もまた、ひどく速く空を行った。半日と少しで地球を1周回り終えてしまうのである。その速さは、音速のピジョットと並ぶ程に。


カイリューの羽ばたきは数少ない。力が強かったから、1回上下させればそれでしばらくは必要の無い事なのだった。静かで、疾い。専ら空輸要員ともなっている己のカイリュー、天を飛ぶ者、ヒテンに乗ってこのように空路を行く時、レンは大抵眠気に襲われてしまう程である。大事な荷物を運んでいるために安全第一の飛行が求められるので、余計に。
単に私的なものであったなら、ヒテンの好きなように空を行かせていた。まぁ、余り無謀で無茶な飛び方はしないのがこの彼であるのだが。レンの大きなカイリューは、悠々と翔け抜ける事を好んでいるから。




ホウエン地方の大海原はよく知る場所である。彼女にとってもヒテンにとっても、また、その恋人にとっても。いつであったか、2人と2体で空を遊泳した事さえ有る。


青年の黒いリザードンは非常に気紛れな個体で、彼もそれを無理に制しようとはしていなかったのも有り、その雄の火竜はとても奔放に大空を行った。例えば、ドリルライナーをするドリュウズかの如く。或いは、力強く羽ばたいて遥か上空へと昇っていったかと思うと、突然動きを止め、ふわりと浮遊感の後に脱力して落下。アレは流石にヤバかったと、青年の真顔に少女は不謹慎にも笑ってしまったのであるが。




『カグロの好きに飛ばせたのはギルでしょうに』

『とんでもねぇ飛び方すんだろうなとは思ってた。思ってたが、実際とんでもねぇ飛び方されるとマジでヤバかった』

『ぶふ、っはははは!めっちゃくちゃ真顔じゃん!うはははは!』

『…お前カグロに縄で縛り付けて体験させてやろうか』

『遠慮しまーす!』




カグロもまた、同種族の中では巨躯を誇る個体であった。とは言えども、ヒテンには速さでは及びはしない。追従して飛ぶと徐々に遅れを見せ始めてしまう。カイリューの音速は伊達では無いのである。縦横無尽、はたまた自在不羈に空を駆け回るのがカグロなら、手本のように、基本に忠実に、抜かり無く翔け抜けるのがヒテンなのだろう。
この飛竜達が己らの翼で以て天を往くその様は、何処か傲慢でもありながら、えらく相応しくも思えるのだ。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -