羊水にて眠れ



きづけばおれはいきていた。なにかをこわしていきていた。きづけばおれはいきていて、なにかをこわしていきていて、こわしたなにかによっておれはずっといきつづけていた。おれは、いつもなにかをこわしていきていた。それはおれののぞんだことではなく、けっしておれのよくやいしによることではなく、きづけばなにかをこわし、きづけばそれがおれのすべてになっていた。
あらゆるものからかがやきがきえた。それらはすべて、しんでいた。おれのせいだった。おれがそうさせてしまったのだった。きれいな、それはきれいなかがやきだった。しかしおれが、それをけしてしまうのだった。けしたぶんだけおれがそのかがやきをまとうということもなく、きづけばかがやきをすいとってはけして、すいとってはけして、そうしていのちをこわして、おれはいままでいきつづけてきた。


どうしておれはいきているのだろう。どうしておれはこわしてしまうのだろう。どうしてだれもこたえてはくれないのだろう。どうしてたずねるまえにはみんなしんでしまうのだろう。どうして、どうして、どうして。どうしておれは、いきているのだろう。




はるかたかいそらのなかに、おれいがいのものはいなかった。それが、とてもとても、ここちよかった。ここにはこわれるものがなかった。おれがこわしてしまうものがなかった。それがうれしくて、それがなんだかさみしかった。ここには、おれだけだった。




そのたくさんのみずはおれのはだをすこしだけいためつけた。ただ、がまんできないほどでもなかった。したにむかえばむかうほど、どんどんどんどんくるしくなっていった、どんどんどんどんからだがきしんでいった。


これがしぬということなのだろうか。これがこわれるということなのだろうか。そうなのだとしたら、しぬということは、こわれるということは、どれだけかなしくてどれだけこわいものなのだろうか。どれだけつらく、つらいことなのだろうか。


なにかをいおうとすれば、ごぼりとあわがでていって、どぷりとみずがはいってきた。こわしてしまってごめんなさいと、そういうことはできなかった。まっくらなところへ、おれはむかっていた。




おまえはだれだとそいつはいった。おまえはどうしてここにいるのだとそいつはいった。こたえようとしてもこたえられなかった。




『…どうやらお前は私と同じらしい』




あわれなそんざいだとそいつはわらった。なにかをこわすことしかできない、なにかをけすことしかできない、そんなおまえはわたしとおなじだとそいつはいった。そいつがわらういみがおれにはよくわからなかった。しかし、そいつとおれはおなじものなのだと、それだけはよくわかった。そいつのまわりには、おれがうみだすものとおなじようなかんかくが、ぐるぐるぐるぐるうずまいていた。




おれがそこにいても、そいつはなにもいわなかった。なにもいわずに、ちかくもなく、とおくもないところで、おれとおなじようにまるまってそこにいた。しめつけてくるようなたくさんのみずには、もうなれた。くるしさもなくなって、いたみもなくなって、いまではここちよいほどにもなっていた。それがいいことなのかわるいことなのか、おれにはわからなかった。


あいつがひくりとうごいた。そうして、ゆっくりとうえをみた。つられておれもうえをみた。なにかがこちらへむかってきていた。あついかがやきだった。おもわず、こっちにくるなとどなりそうになった。はらのそこがいきおいよくうずいた。それをひっしにおさえているあいだに、あいつはまるでさそわれるようにして、それにむかっていっていた。あいつはそれにかおをよせた。あいつのまわりをうずまくかんかくが、なんだかやわらいだようにおれはかんじた。




『レン、レン。私のレン。私の水よ、私の海よ』




うっとりとしたようなこえだった。なんどもなんどもかおをこすりつけるあいつを、それはわらってうけいれていた。


うらやましいとおもった。うらやましいと、おれはおもってしまった。よくわからないことだった。しかし、おれはそうおもってしまったのだった。それが、おれのおもってしまったことなのだった。なにかににているとおもった。それはなにかににていた。




(――…ああ、)




それは、あれににていた。しろとあおのあれに、それはにていた。あついかがやきは、とてもあたたかかった。あれがはなつものと、とてもにていた。それは、あれににていた。


それがおれをみた。そうしてそれは、ゆっくりとわらった。ゆっくりとわらって、おれにむかってうでだろうものをひろげた。それは、あれににていた。あれがいのちをさずけるためにみをかえたあのすがたに、にていた。おまえはどうしてあれとおなじなのかと、たずねたかった。どうしてそんなにもあたたかいのだと、ききたかった。つめたいつめたいみずのなかで、それのねつが、かがやいていた。それのねつは、とてもだいじなもののようにおもえた。
だからひどくためらうことだった。またこわしてしまうかもしれないのだと、きっとこわしてしまうのだろうと、だからこわくてためらった。しかしそれは、わらっていた。それはわらって、おれのところへとやってきた。ためらうことなくおれにちかづいてきたそれは、やわらかにわらっておれのはなさきをだいた。やわらかく、あたたかだった。つめたくすんで、じわりとあたたかな、やさしいにおいだった。あれのにおいも、そうだった。


むねがはりさけるようだった。やさしくおれのあごのしたをなでるそれが、こわくて、いとしくて、こわくて、いとしかった。
これをこわしたくないと。これをころしたくないと。そんなことになるのなら、いっそおれがきえてしまえばいいと。


いとしいというかんじょうを、いとしいとおもうことを、おれはそこではじめてしったのだった。





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