炎の3匹と彼らの主人達
熱によって花が駄目になるその進行を少しでも遅らせようと、自身の体内発熱を抑えながら、バオッキーは来た道を引き返していた。
秋空は高く、雲1つ無く、澄み渡って青い。そうして冬にもなれば、もっと彼女の瞳に似通った色を多く見る事となろう。そう思った後で、上向けて僅かに細めていた目を前へと戻すと、よく見知った顔がしばらく先に居て。互いに距離が縮まったなら、垂れ目の老婦人がバオッキーと、それから彼の頭上のバオップを認めてゆったりと微笑んだ。大きい火猿は平素のゆるりとした笑みのまま会釈をし、小さい火猿は嬉しそうな表情で手を振る。
「こんにちは、エース君とジュニア君」
「ッキィー」
「バオプー!」
「そのブーケ、とっても綺麗ねぇ。あの2人にあげるのかしら」
「バオ」
「あらあら、いいわねぇ。きっと喜ぶわ、えぇ」
その後も何度か、行き違う顔見知りの人々に同じような事を言われ訊ねられ、毎度に返す2匹。居住するアパルトマンの建物のすぐ近くで若い女性と朗らかな遣り取りを締め括っては、階段を上り部屋を目指して。辿り着いた扉の前で、ただいま、と。エースが1つ言葉を発すると、ほんの少しの間を置いて、開錠の音である。
出迎えたのはヘルガーだった。エースの長年の同僚(否、戦友か)だ。
『お帰りィ』
『おー』
『ただいまーっ』
『2人は?』
『昼寝してるー』
『そう』
『ルーサーみてこれ!』
おっイイ感じじゃーん、なんて、ルーサーが鼻を近付ける。良い香りだとくすくす笑う彼に、ジュニアもにこにことしながら肯いた。
取り敢えずとボウルへ水を少量入れ、勿論リボンや包装を濡らさぬようよく注意を払い。そこに、ブーケの茎の先端を浸す。重心のバランスの問題で倒れてしまうから、支え等も設置して。あとは2人が起きるのを待つだけである。そして、自分達は寝てしまわない事。まぁ最悪は、とエースは考えるも。誰か1匹でも意識が有りさえすれば、それで一応には十分なのだから。
小腹が空いたと主張したルーサーにザロクを数個出してやってから寝室へと赴くと、ダブルベッドの上で、彼と彼女は穏やかに眠っていた。仰向けの青年の上にうつ伏せのように少女が寝そべっている。毛布やシーツは被っていない。近付いて様子を窺いに少しばかり覗き込めば、首元に顔を寄せ入れたレンの額横辺りへ、ギルが顔を向け頬を添えていて。いつもと変わらない2人だった。エースは、やんわりと口角を上げる。
『おれもねるー』
『の前に、ブランケット持ってきてくれるか』
『はーい!』
幾らルーサーのおかげで部屋が暖かかったとは言え、それでいたって、何も被らずにとは。やれやれと息を吐きつつ、額の斜め上程を緩く掻く。恐らく留守番係の彼の言い分は、自分が温めているから大丈夫かと思って、といったところなのだろうし。まぁそれも確かにご尤も、故に特別責めるつもりも無いのだが。エースはくありと、1つ欠伸を零した。
――さぁ、さて、2人の反応が待ち遠しくもなってきたものだ。ギルとレンが起きるそれまでの間は、モコシの実を齧って悠々暇を楽しむとしよう。