バオッキーとバオップと花屋



秋も中頃、次第に涼しさが肌寒さへと変わっていくこの最近。2匹が店を訪れると、まだまだ新人のアルバイト店員である少女――サクはヒィッと小さな悲鳴を洩らした。店長デルナ婦人は恰幅の良い見た目に似合った快活な笑い声を上げ、いらっしゃいと彼らを持て成す。よく見知った顔だ。勿論ポケモンだけでは無く、大と小の赤い火猿達のその主人である人間の事も。ギル坊かレンのお遣いかい、と、彼女は笑み混じりに訊ねて。首を横に振ったバオッキーにおや、と今度はきょとん顔になる。




「ッキィ」

「うん?何だい、お遣いじゃあないけど、花は買うのかい」

「バオ」

「ップ!」




自分で選ぶのかと訊けば、大きい方の火猿がゆったりと肯いた。その頭の上で、時折鼻をひくつかせつつ、バオップが店内を見回している。サクは恐る恐るとしながら(一から十まで話すとなったら少々長いのだが、この少女は炎タイプのポケモンを苦手としているのだ)も、彼が一体どの花を選ぶのか、興味は深々と。何のための花だろう、何を思ってなのだろう。気にならない訳が無かった。そもそも、全く無いでは無いとは言え、このようにトレーナーを伴わないポケモンのみが花を買いに来るというのはやはり珍しい事なのだから。
彼はジェスチャーで花束を作ってほしいと言った。それも、サイズ的にブーケタイプのものだろう。


まず初めに、バオッキーはロシアンセージを指で示した。別名サマーラベンダー、花言葉は『家庭の徳』や『家族の愛』。セージと付いているが別段ハーブの仲間では無いこの植物は、白い柔らかな毛に覆われていて銀白色にも見える葉や茎を有し、青紫の小花を穂状に咲かせる種である。本来園芸向きのもので、花束に使われる事はほとんどと無いのだが、客の要望は要望だ。それへ出来得る限りで応えてこそ、提供する側の矜持であり理念であろう。――尤も、そうと掲げながらも、必ずしもそのモットーを貫くでも無いのがこのデルナ花店の店長、デルナであった訳だが。
そうして花々が選び出されては素材となっていく。ロシアンセージに続いたはブルースター、そしてカーネーション・ライラックブルー。名前にも含まれた星型の小さな花を選んだのは小さな火猿だった。頷いたバオッキーに、デルナが早速とばかりにブーケを作り始める。それらを主体に店長の判断でカスミソウも取り入れられ、茎部分で螺旋状に組んでいく彼女の慣れた手付きに感嘆しながらも、サクはサクで次の花を取りに掛かった。無論、赤のポケモン達には多少びくついていたのだが。まだ何とかなる――逃げずにいられるのは、彼らが客として此処に居るという事の他に、前に1度会っているからというのも有る。あれはきっとレンさんになんだろうなぁ、なんて頭の片隅で少女は思った。


赤のラナンキュラスを2本、カーネーション・プラドミントを3本、カーネーション・ブラックベルマウスを2本。これらを選び出す頃には、店長の手元に1つのブーケが出来上がっていた。360度ぐるりと組まれ半球体、リボンは太帯のダークブルー。爽やかすぎず、寒々しく無く、何処か可憐に上品に、そして静やかに目を引く。――嗚呼、何と。




「エース、勿論これはレンに贈るんだろう?」

「バオ」

「エースさん、センス良すぎです…勿論ジュニア君もっ。あと、それを作った店長も…!うわあああ何かもう胸が…!いっぱい…!」

「ほらサク、感動するのはいいけどそっちを寄越しよ」

「あああはいっすみませんっ」




2色の赤と薄緑で組まれたブーケは、此方もまたデルナの判断で赤ドラセナを、まるでそう、襟かのように。そして青い1作との違いと言うなら、あちらは装飾をリボンのみにしたのに対し、これには黒い網目タイプの包装紙も少量用いた事である。ソレは、ブーケを控えめに包み上げた。同じく上品でありながら、心地好い重さの華々しさ。リボンは細い、濃い赤のものを。ほう、とサクは息を吐く。




「さぁ、出来たよ」

「ウキィー」

「オプップ!」




片腕ずつでブーケを受け取ったエースの頭上から、ジュニアが青と赤を覗き込んだ。ゆらり、ゆらりと尾が揺れて。ひどくご機嫌なよう、と、捉えて良かろうか。少女は微笑んだ。




2匹がその公私に拘わらず、金額が釣り合うまで2人の何かしらの手伝いをする。代金はこの申し出で纏まった。とは言え、恐らくサク個人からの要請は無いのだろうが。
ぺこりと揃って頭を下げ、店を出ていったバオッキーとバオップ。その主人トレーナー達、彼と彼女はどんな反応をするのだろうか。驚いて目を丸くして、笑って喜んで。想像して頬が緩む。




「…それにしても、あんなに花言葉がぴったり一致するなんて!」

「本当にねぇ。あの2匹がそれを知ってたかどうかは知らないが…ま、レンはともかくギル坊のこった。ちゃあんと伝わるだろうさ」

「ですね」





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