真実は海の底に眠る



静かな深海にマツバは居た。その底に、淡く淡い穏やかな光。大きな1つの泡が、揺らめく水に留まり定まっている。不思議と、甘やかで懐かしい。ただひたすらに、安堵を、覚えた。何処までも何処までも、安らかに、緩やかに。


気付けばゆたりとした海中を、少しずつ進んでいた。その度にその度に縮まる距離。あと幾らか程、それで泡光へと辿り着く。暗い中を、そっと、そっと。ふと、上を見た。海面は闇に消えている。息が詰まるようであるけれど、不思議と、恐怖の感情は生まれてこないのだ。呼吸が叶わなくなる事は無いとその確信を持たせるソレが何であるか、マツバには分からない。なれども、そう、絶対に溺れやしない、こう思うのである。


――閑やかな白銀の輝きを前にして、身が軽くなり心が引かれる。息を、ほうと吐いた。


さぞ大きかろう翼で囲い、脚と尾を丸め。首を擡げた粛たる無彩色は、1人の少女へ、その鼻先を擦り寄せているかのようである。甘え、母としたとでも言わんばかりに。しかしそれは、すとんと胃の腑に落ちていく。その様子にどうして首など振れようか。こうも、当然だと思ってしまえるものを。はっきりと、あっさりと、マツバはそれへ頷き微笑む。


1つ瞬きをした、この刹那の変化だった。少女のすぐ後ろ、傍らに、真白の体躯の知らぬ生き物。ふわりとした清らかな毛並、柔らかい流れである。嫋やかに、美しく。また麗しいその竜は、凛と其処へ佇み、控えて在った。嗚呼、それは何故そうも、強く、強いのか。


沈みゆく海神と竜。月が銀に煌めいて、白が青い炎を揺らめかせる。澄み渡る黒海の奥底へと、潜っていく陰と陽は、気高き理念の形であるのだろうか。嗚呼、きっと、そうに違い無い。


真白がマツバへ目を向ける。知らぬその生き物が、聴こえぬ言葉で何かを言った。





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