理想は空の高みへ昇り、



静かな荒野にマツバは居た。その先に、高く高い無機質な塔。寂びれた1本の筋が、遥かな空へと伸び続いている。不思議と、物悲しさも胸のざわつきも無い。ただひたすらに、崇高に、思えた。何処までも何処までも、尊く、貴く。


気付けば螺旋の階段を、1歩1歩踏み締め進んでいた。とてもとても長い間。何百と、段を上ってきたような感覚が有る。薄明るい中を、ずっと、ずっと。ふと、下を見た。最下は奈落に消えている。目が回るようであるけれど、不思議と、恐怖の感情は生まれてこないのだ。足を踏み外す事は無いとその確信を持たせるソレが何であるか、マツバには分からない。なれども、そう、絶対に落ちやしない、こう思うのである。


――焦がれる虹の輝きを前にして、打ち震える心に膝が笑う。喉が、ひりついていた。


さぞ美しかろう翼を畳み、地に足着け。幾分ほっそりとした首を擡げた聖なる七色は、1人の男へ、その頭を垂れているかのようである。恭しく、主と認めたとでも言わんばかりに。しかしそれは、すとんと胃の腑に落ちていく。この光景にどうして異など唱えようか。こうも、当然だと思ってしまえるものを。はっきりと、あっさりと、マツバはそれを受け止める。


1つ瞬きをした、この刹那の変化だった。男のすぐ後ろ、傍らに、漆黒の体躯の知らぬ生き物。艶やかに光沢を持ち、時折碧黒くさえある。筋骨隆々として、逞しく。また雄々しいその竜は、厳かに其処へ立ち、控えて在った。嗚呼、それは何故そうも、強く、強いのか。


飛び立つ鳳凰と竜。太陽が金に輝いて、黒が青い稲妻を迸らせる。晴れ渡る蒼穹の彼方へと、翔けていく陽と陰は、気高き理念の形であるのだろうか。嗚呼、きっと、そうに違い無い。


男がマツバへ振り返る。知るその顔が、知る笑みを浮かべていた。





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