大将にして中枢にして、そして



レンの生まれは片田舎、ジョウト地方のワカバタウン。生後間も無く母親に連れられて移り住んだのは、同地方ヒワダタウンの南海に存在する島、アルトマーレという町である。そして、そこで過ごし育つ事11年。その後に、ホウエン地方のカナズミシティへと同じように移住したのであった。
彼女の母親の生まれはワカバタウンであるが、父親はアルトマーレ出身だ。出産までは自身の親元で、レンの生後は夫の親元で。各々の月日・年月を過ごしたという訳である。


さて、『始まりを告げる風が吹く町』ワカバタウンと言うならば。規模の小さいものなれど、彼のウツギ研究所の存在が最もその知名度に貢献している事だろう。ジョウト地方の少年少女の多くは、この比較的年若い博士から初心者用ポケモンを1匹貰い受け、風に背中押されて旅立ちの1歩を大きく踏み出していくのである。若葉が芽吹き、生長していくように。彼彼女らは、人として、ポケモンを育て戦わせる者として、広大な世界を知り、大きく大きく成長していくのだろう。


レンの母親とウツギは旧知の仲で、それなりに親しい間柄だった。彼は出産祝いだと、特例とも数えられよう、これから育っていく幼い幼い女の子へと、あるポケモンを1匹、贈ったのである。
ワニノコでもチコリータでも良かった――しかし、選んだのは。小さな鰐でも無ければ、香草の保有者でも無かった。生態特徴として臆病だと言われる、火鼠ポケモン。同じくまだまだ幼い雄のヒノアラシの入れられたモンスターボールが、ウツギによって、紅葉の手に握らされたのであった。




『これから何年か過ごすのは彼の水の都だっていうのに、選んだのはワニノコじゃないんだ?』

『うーん…何だかね、この子には…レンちゃんには、ヒノアラシだなって。自分でもよく分からない、うん、勘みたいなものなんだけどね』




少しばかり困ったような笑みを零しては頬を掻いた馴染みの相手に、彼女はくすくすと不思議そうにも可笑しそうにも笑って。――嗚呼、だけれど、そう。何だか解る気がする、と。2人で小さく微笑み合って、幼子へ優しい目を向ける。




レンがカナズミシティへ移住する頃には、彼女の手持ちは3体に増えていた。ヒノアラシが最終段階までの進化を果たしたバクフーン、名をコテツ。それから、アルトマーレの水路にてウパー時にバトルで捕獲した、今やヌオーであるその雄個体はデイオウと名付けられていて。
カイリューへと姿が至る頃には、並となど言えやしない巨体と怪力を大いに揮い空輸の主要員ともなっている、というのは余談として――ハクリューは、レンが5歳になって数日後に、ジョウト地方フスベシティ北の龍の穴という洞窟の奥、地底湖の中央に粛々と存在する社のそこな主である長老より、卵の状態で譲渡されたミニリュウが1段階進化を経た1匹である。コテツ・デイオウに比べ元気溌溂とした気質の彼は、バトルをする事に対しても2体以上に意欲的だった。


――とあるカフェのとある若い男店長にとっての先鋒がバオッキーやガブリアスであり、中堅がブラッキーやトリミアンであり。不動、こればかりはこの1体だけと、大将がバンギラスであるように。1番手にはペンドラーか、またはカイリューか、もしくはジュカインか、或いはバクフーンか。中堅方としては、チルタリスであったりヌオーであったりジャローダであったり。なんて、完全に形が決まるのは当分先の事ではあったのだが。
最も初めに揺るがぬ事項と成ったのは、大将格である。


ハイレベル且つハイスピードな演算を可能とする計算処理ポケモンでもあるその種族、メタグロス。ダンバルがメタングとなり、そして更なる進化を経ての姿だ。生息域がかなりに狭いこの3種において、形態として最も幼い段階の、磁力を有する鉄球ポケモンを、レンは如何にして手持ちとしたのか。


彼女の父親は、ホウエン地方のカナズミシティに本社を構える、デボンコーポレーションという企業の部門責任者を務めていた。課長、では無く、これの場合、言わば部長格であるのだが。故に彼は、会社の代表取締役であるツワブキ氏と割合親しくあった。そもそもこの初老人は気さくな人物であったから、社内の大抵の者達とも和やかであったけれど。それを差し引いても、親密な間柄と言えるのだった。
ツワブキ氏には1人息子が居る。その名を、ダイゴと。彼こそ、この地方に名立たる、ホウエンリーグの頂点に座するリーグチャンピオン、の、双璧の一方(何故このように称するかと言うなら、まぁ、大分に特異な事例であるからなのだが)であった。そして、親共々大の石マニアとしても知られる青年の、相棒というのが――そう、メタグロス。鋼鉄質の超ヘビー級ポケモンである。


各々の父親を通じて2人は互いに知り合った。1人っ子のダイゴはレンを妹かのように可愛がり、1人っ子のレンはダイゴを兄かのように慕う。彼が彼女へ、幾つも所有していたダンバルの卵の1つを譲って与えるのは時間の問題だったという訳だ。
こうして手にする事となったそれを無事に孵し、戦わせ、育て上がったメタグロス。レンはこの性別不明種のポケモンを、グレイド、と名付けた。4つ脚の鋼鉄なる鉱物体は、非常に冷静、そして昼寝好きなとかくタフネスの優れた個体で。そもそもの話、メタグロスという種族自体実に優秀である。ステータスの軒並みの高さ、耐久に難の無いタイプ複合、扱える技のバリエーション――強く逞しいアタッカー型。グレイドがレンにとっての大将格とならない理由が、何処にも無かった。




少女のメタグロスは、彼女と、そしてその手持ち達の中において、まさしく奥に控える中心的存在だろう。と言うのも、冷静で、寛容で、勿論の事聡明で。且つ、中々早い内からレンと共に過ごしてきたためである。彼女にとってバトルメンバーでの大将格であるグレイドは、或いは、まるで父のようにも、はたまたまるで母のようにも在った。コテツやヒテンは兄だ、デイオウは祖父だ。後にも兄弟分姉妹分は増えていく。けれども父であり母である存在は、そのメタグロス以外に現れる事が無かったから。代わり、とは言わない。彼女に血を分けた本当の両親とはまた、別の、父にして母。


いつからなのか、何故なのか。曖昧で、あやふやだけれど。しかしそれは、確たる事なのである。





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