水の都、永遠なる海、呼び水とその水瓶



深く、遥かに続く海。
それは生物の誕生し、その母なる場所として、世界に広く認められ云われている。




アルトマーレ――ジョウト地方ヒワダタウン南に広がる海の遠く沖合い、其処にこの町は存在した。水路の張り巡らされた、海上に浮かぶ島。
水の都、と。アルトマーレはそうも呼ばれている程、水に溢れる町である。ジョウト地方には珍しい建築様式、何かと言うならカロスにおけるそれである建物が建ち並ぶ。街の中には大小・広狭様々な水の路が走っており、そこを数々のゴンドラが行き交うのだった。美しく、豊かな町。それがアルトマーレ、水の都である。




幼い少女が楽しげに笑っていた。街の中の何処にでも見られるような小さな小さな水路にて、そこに棲まうポケモン達と戯れながら。少女がルリリやマリルと水遊びをして笑い声を上げれば、掛かった水にポッポやヤミカラスが体を震わせ仕返しとばかりに飛沫を飛ばす。寛いだ顔で仰向けに浮かび、尻尾を使ってのんびりと遊泳するのはヌオーである。その大山椒魚の腹の上にはヤンヤンマが停まって羽を休めていた。元気に泳ぎ回るミニリュウは、アルトマーレはおろか、他でも余り見られない種族であるのだが、時折明らかに個体名で呼び掛ける少女へ鳴いて返している様子から、彼女の手持ちポケモンであるのやもしれない。尤もそれは、ヌオーにも言える事であったのだけれど。
水路の傍らの日向。少しだけ離れた場所で、マグマラシが見守るかのように居た。己の元へと少女が満面の笑みのままやって来れば、横たえていた体を起こし、抱えていたふわふわのバスタオルを彼女に渡す。




『…コテツの匂いがする!』

『…マァグ』

『ずっと抱えてくれてたからだねぇ』




淡いブルーが幾らか濃くなっていた。コテツが再びゆったりと伏せ、その藍色の背に覆いが被されて。少女は水路へと戻っていく。この陽気であるなら、そう間を置かずに、青は元のパステル調に色を変える事だろう。それに、自分の高い体温も有るから。
火鼬は目を細め、楽しげな笑い声のする眩しい光景を眺めに戻るのだった。




世界には、伝説として云われるポケモンが数種、存在する。アルトマーレもまた、それらが伝わる地であった。――水の都の護り神と。2種はそう、呼ばれている。


少女は時たま、この特別なモノ達とも遊ぶ事が有った。白に青と白に赤の、1対。アルトマーレでは有名なポケモンであった。故に彼と彼女がどういう存在なのであるかはよく解っていたが、それでいて少女は無邪気に、子供特有のものばかりでは無い、澄んだ心のままに。




『いつもそこに居るの、わかってるよ。ね、一緒に遊ぼう?』




隠している姿をどうして見付けられたのだろうか、何故わかったのだろうか。ラティアスは困惑しながらも、その言葉に魅かれ、笑ってそう言う子供の内面に惹かれ、ゆっくりと能力を解いたのであった。


種族としては繊細でありがらも、好奇心旺盛で無邪気な部分が有った赤。対して青は、幾らか警戒心の強い個体であったらしい。ラティアスと少女が遊ぶようになってしばらくの後に、ようやく彼も姿を現して加わったのだった。とは言え、ラティオスはよく、コテツと共に見守る様にて在ったのだが。
貴方達は兄妹か、或いは番いなのかと少女が訊ねる。2匹がとても、仲睦まじくあったからである。




『えーっと、お兄ちゃん、と、妹?』

『ヴァルル』
『パルゥ!』

『そっか!…へへ、あのねー、私とコテツもね、私が妹でコテツがお兄ちゃんみたいだねってよく言われるんだー。一緒だね!』




頷いた彼らに彼女は笑った。陽射しの下で眩しい白達と、同じ、だ。そうしてマグマラシの首元に嬉しそうに抱き着く少女と、静かに目を瞑り小さく擦り寄るコテツを見て、この地とこの近海を見護り続けてきた兄妹は、表情を緩め微笑むのだった。


住み処とする秘密の園への帰り道。彼女は兄へ、言う。レンは呼び水を入れた水瓶だね、と。彼は肯いた。妹の言い表すその通りだろう。あの子供は、水を呼ぶ――海を呼ぶ。
少女が笑えば、街の外からさざなみの音が聴こえた。それは決して、己らの背を嫌に撫ぜてはせせら笑うものでは無い。穏やかに、優しく。おいでと囁いて微笑む、顔も知らぬ母かのように。





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