赤の女王



彼女はとにかく苛烈であった。猛烈にして熾烈。それはその性格・気質と思考、更には服装にもよく表れている。はっきりとした黒と、鮮やかな赤である。誰から見てもセクシーだとしか言いようが無い美しい体付き。そのラインを損なわずに、肌を隠しては彩っている。
彼女はとにかく、激しさを秘めた女であった。平素はクールで冷めた印象を受けるのだが、実情はそうでは無い。苛烈で冷酷なサディスト。彼女の部下が洩らすには、よく暴力による制裁を与える人間だと、まるで全てを焼き尽くし呑み込む灼熱地獄の女帝かのようだと。 


炎は様々に色を変え、姿を変えるものである。それと同じで、彼女は幾つかのカオを持っていた。ある時はカロスリーグにて火炎の間に構える四天王、またある時はカロス地方の主格ニュースキャスター。――そしてフレア団の高位幹部としてのパキラこそ、その本性とも言うべき部分の発露、というよりもか、それがようやっと、完全に制約を解かれた状態なのであった。




彼女が明確に、敵意とも憎愛ともつかぬ感情を向ける事となるとある若きトレーナーが、1人の男の野望を砕き、砂に変えては地に還す。というのは、まだ幾ばくか先の出来事であるのだが。
気付けば特別な想いを抱いていた、そんな相手が居た。それも、男と女で1人ずつ。そしてその2人はまた、1組、なのである。己よりも年下の青年と少女へ、パキラは並々ならぬ様であった。そはさも、烈火の如く。


彼女の燃え盛る、焼き尽くし、喰らって呑む灼熱。純粋な恐怖と悪意までも感じるその真っ赤な炎を、ゆうるりと、ぺろりと。いとも簡単に自身の内へ収めてしまったのが、そう、ギルだった。
彼もまた、炎を内包する人間である。しかしながらそれは、単なる灼熱とは異なる。ギルという青年の赤は、黒みを帯びもすれば橙に和らぎもして。或いは、全く変わって、青白くさえも現れた。彼の炎は焼き尽くしもするし、喰らって呑み込みもする。そしてまた、包み、見守り、導いて示す事も有ったから。如何様にも揺らめき、姿と色と、熱量を変える。そんな、不定形極まった炎。――尤も、その灯火の奥には、冷気で満たされた地底に万年氷が存在しているのだが。そして其処の在り処と在り様に、パキラは気付いてもいたけれど。


火炎の間にて迎えた青年。彼もまた、炎ポケモンの使い手らしかった。黒い地獄の犬が躍動し、主と揃って愉しげに口を開く。
自身を上回る――つまるところの上位物に、喰われて呑まれた炎の、大元にしてそれそのものであった彼女は、一瞬胸の内が伽藍堂と化すのを感じた。何も、無いようになったのだ。そういう感覚を、恐らく初めて、身を以て知ったのだった。激しく燃え盛っていた彼女の其処は、気付けば、静かな青い、透き通って美しい炎に、蹂躙され、主と取って代わられていたのである。青年の、あたたかでいて、冷たい灯火。己と似て、全くに非なるそれに、パキラは魅入られ、侵食されたのだった。




呑み込まれた後に、何事も無かったかのように異物として去り置かれ、元の場に元の主と戻った赤は、次に、水に焦がれて身を滅ぼしていく事となる。互いを傷付け蝕む対極のもの。だというに、炎は少女へと手を伸ばした。痛みは、それを一切感じさせぬ程の柔らかな出迎えを前に失せて。何より豊かな潤いは、器の中に在ったのだ。熱に大層強い素材で出来たその定形物は、内包する水の冷たさでか、じんわりと冷えていて、触れるととても心地が好い。青年とは少々異なった受け入れ方をしてくれるレンに、パキラはこの時にもまた、惹かれ、溺れていったのである。




それらが故に、彼女は2人へ入れ込みに入れ込んでいた。実に並々ならぬ程に。片方だけでもいいが、その炎と水が揃っていても構わない。どちらも纏めて己のものであるのだと、パキラは隠す事無く明言するのである。まぁ、それについて、青年と少女は似たような苦笑を浮かべるのだけれど。





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