2度目のホドモエジム



手持ち計3体の中でギルと最も長く付き合ってきたのは、その相棒、ヘルガーのルーサーである。ガマガルの放った濁流に呑まれてしまったエースを経て、ギーグの相討ちにて、辛くも持ち込みを果たしたラストバトル。地獄の黒い犬と、鋼鉄の掘削器官を持つ土竜が、互いを睨み構え合う。しかしヘルガーは喜々としていたし、その主である挑戦者の少年は、何処か、笑っているようだった。


どちらのポケモンも速攻型。但しスピードにおいて上回ったのはヘルガーで、総合的な耐久力において優位を取ったのはドリュウズである。タイプ相性に関して述べるなら、双方相手の弱点を突く事が出来た。勝敗の行方は容易には予想がつかなかろう。
少年は、ヘルガーを場に出した際に、こう言った。お前の好きなようにしてみればいい、と。ヤーコンはテンガロンハットの唾の下でその言葉に眉を顰めたが、黒い犬は、主を肩越しに見遣っては愉快げに1つ、吠える。そうしてドリュウズへと戻った視線。そこには、一層ギラついた光が伴っていて。土竜が何かを感じて身構えた。そんなドリュウズに、ヤーコンもまた、敵方を見据える。


ジャッジが開始の合図を口にした――その瞬間、だ。ヘルガーの起こした行動に、中年のジムリーダーは思わず目を見開いた。場に充満し始める濃厚な"スモッグ"。毒のタイプ技は鋼タイプに対して一切の害とならない。ドリュウズにはダメージを与えられない、それを知らない訳では無かろうに。とにかく、自身には有害である濁った黒紫色の毒の煙を吸い込まないようにと、ヤーコンはポケットから取り出したハンカチを呼吸器官に宛てがう。濃厚なスモッグで、フィールドの視界は悪いものとなっていた。


今、ルーサーが一体どんな顔をしているのか。ギルにはそれが、よく解っていた。きっと、悪企んでいるに違い無い。悪戯が大好きで、やんちゃなあの相棒。度が過ぎて、たまに悪どい表情すらするあいつの事だ。次に何をするのか。嗚呼、いいさ。好きなようにしてみればいいと、確かに己はそう彼に、言い付けた。だから、邪魔などしてやらない。少年は笑う――全てを許して、悪辣に笑う。


ヘルガーの口から吐き出される炎。その種族の体内で生成される毒素、それが燃やされたものである。時として突き刺すような臭いを有し、時として毒さえも混じり入る。炎は真っ赤にも真っ黒にもなった。ごく稀に、青白く現れる事すらも有って。
毒素が燃やされて生まれる炎。ホドモエジムの最深部、最下層の空間、そこを満たすは濃く厚い毒煙である。濁った黒紫色が、そんな真っ赤な火炎にどう作用するか。答えはそれこそ、火を見るよりも明らかな。爆裂を伴って放射された超高温の炎の色は、通常の赤とは異なっていた。薄らと青黒く、美しく、そして恐ろしく。凶悪なまでの、灼熱であった。




向き合うチャレンジャーとジムリーダー。中年の男は、数年振りに見る顔へ言葉を投げ掛ける。




「一体何しに来たってんだ、お前は。バッジならもう持ってんだろうが。…そこのは手前のカノジョか?雄姿を見せたくてとかいう下らん理由ならさっさと帰りやがれ」

「何しにって、そりゃあバトルしに来たに決まってんだろう、ホドモエジムのジムリーダー殿。これは単なるおまけだから気にしないでくれ」

「うす、ほんとお気になさらず」

「…フン。だったらとっととバトルしてやろうじゃねぇか、お望み通りに。俺だって暇じゃねぇからな、付き合ってやるだけいいと思え」

「あぁ、感謝する。…それで、叶うなら、貴方の最高の面子でのお相手を願いたいんだが」

「………いいだろう。――…お前の成り上がりは耳にしてる。とは言え、俺もその最高の面子とやらで臨む上に、前と同じ手は食わん事だけはよく頭に入れとけよ、ガキ」

「はは、勿論。…よろしく頼もう、サー・ヤーコン」





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