ギルとレンと蜂蜜売りの少女
「えと、これがまずレンゲの蜂蜜です。でこれがソバ、これはトチ。こっちがミカン、クリ、そしてこれがクローバー。です。ギルさんならポピュラーなものは知ってるだろうと思って、カロス地方というか、ミアレシティではあんまり見掛けない種類のやつを持ってきた、ん、ですけど…」
「まぁ、一通り味と、何に合うか何に使えるかっていうのは把握はしてるが」
「ですよね…なら安心です!ちゃんと検討して頂けるって事です!」
「甘くは無いからな?」
「むしろお願いしますっ」
「ん」
「――やっぱクリはクセ強いよなー、普通の料理にゃ使いづらくてならん」
「うぅ…ですよね…私もクリの蜂蜜、無理ですもん…薬みたいで」
「効能も考えたら完全に薬だよこいつは。…エースは十中八九これ好きだろうな、食わせてみっか」
「…エース?」
「俺のバオッキー」
「バオッキー。聞いた事な――ヒィイ?!!!!」
「、え、何?」
「…バオ?」
「ぎっるさっ、まッ、待って下さばばばバオッキーって何タイッ、プ、炎?!!!!これどう見ても炎タイプですよね?!!!!」
「おー。サクちゃん炎タイプ苦手?」
「苦手です苦手です苦手ですうううううう!!!!」
「…ドンマイエース」
「ウキィー」
「で、これ。クリの蜂蜜。お前きっと好きだと思う、食ってみ」
「ウキ。――!ッキィー、」
「パンケーキに掛けたり木の実の盛り合わせに掛けたり?」
「バオ!」
「ん、じゃそれもだな。いい機会だし試行錯誤も出来る…おーいそこのお嬢ちゃん、大丈夫かー」
「ううう大丈夫じゃ、ない、ですう…!」
「取り敢えず、ソバとトチ、あとクリの蜂蜜、買わせてもらうよ。勿論値段も考えてきてんだろ?」
「…!!!!っほ!んとですか…!かっ考えてきてます!大丈夫です!ありっありがとうございます…!!!!」
「――こんにちうわああああああああい!!」
「…えっ何、どしたの彼女」
「炎タイプ苦手なんだと」
「あー、成る程。…え、ていうかそれってそしたら、」
「えっエースさんこここここんにちっはっ」
「バオッキィー」
「あっ、えと、皆さんもこんっにちは…」
「オプ!」
「ワフッ」
「クルル」
「サクちゃんあの、そこの3匹全部炎たい「ヒイイイイイイイ!!!!」…おっふ」
「そこのちっせぇのがバオップで、バオッキーの進化前な。黒いのはヘルガー、1番でかいのがバクフーン。ヘルガーとバオッキーは俺のでバオップとバクフーンは」
「私のー。…まぁ…よろしく?」
「よよよよろしっくっお願いし、たくないですうううううごめんなさいいいいいい」
「ふはっ。いやいや無理しなくていいよーでもボールに戻しはしないから頑張って!」
「?!!!!レンさんおっ鬼だっ!!」
「あっはっは!」
「何でギルさんといいレンさんといいそんな炎タイプのポケモンいっぱい持ってるんですかぁ…!いやいいけど、いいですけどぉ…!ううっ………」
「やー何でだろうね。でも私炎タイプこの2匹だけだよ、ギルは炎祭りだけど」
「祭り?!!!!しないで下さい?!!!!」
「あとウインディとリザードンとシャンデラだな、炎は」
「いやあああああああどうしてそんなお2人共ニヤニヤしてるんですか酷い!!!!悪魔しか居ないんですかこのカフェ!!!!」
「「あはは」」
「さて。まずこれ食ってみてくれ」
「はい、戴きます!………!おっ美味しい…!」
「ガレットは基本的にソバ粉から出来てるんだが、これに合うのが同じソバの蜂蜜なんだよ。これで軽食にしてもいいし、菓子にしてもいい。ウチは両方だがな。で、サクちゃんの持ってきたソバの蜂蜜は普段俺が使ってるやつより若干糖度が高かったから、使い分けさせてもらう事にした訳だ」
「うっ嬉しいですっ…!」
「それから、このグレープフルーツジュース。果汁は8割、そこにトチの蜂蜜を入れてある」
「――わっ飲みやすい!」
「だろ。トチの蜂蜜は生ジュースによく合うし、これもやっぱり糖度が高めだったからな。…んでガラッと変わってすまんが、こっちの煮物も食ってみて。筑前煮っつって、ジョウトの煮物なんだがよ」
「んんっ…!ふんわり甘い、です…!」
「ジョウト煮物の隠し味にも使えて、これはどっちかっつーと私用に使わせてもらってる」
「ありがとうございますっ!」
「――で、これが難問のアレだが」
「!は、はいっ…!」
「ほい、これ食ってみ」
「チョコ、ですか。戴きます!………、っ、?!」
「旨い。だろ?」
「ッ!ッ!お、おいひい…!」
「ブラック、ミルク、ハイミルクで試した結果、最も合うのはハイミルクだった。クリの蜂蜜って、言っちまえばかなりエグいだろう。でもあのエグさが洋酒のコクに感じられるはず」
「はい…!こう、大人の味です…!」
「これならアルコールが駄目な人でも、或いは今アルコールを摂取したら支障が出る、なんて人でも問題無く食える。メニューに取り入れさせてもらったよ、いい蜂蜜と機会をありがとう」
「…っ…!!そ、んなっ、こっ此方こそ…!!」
「こないだの後で改めて食べ比べてみたんだが、取り敢えず結論としては、サクちゃんとこの蜂蜜は全体的に糖度が高いらしいって事だ。そこを頭に入れておくといい。それから、全種価格を多少底上げした方が相応の価値だと思うぞ」
「は、いっ」
「あと、エースな。こいつ渋味大好きだから、ほんとクリの蜂蜜気に入ったみたいでよ。パンケーキに木の実の盛り合わせにって何にでもドバドバ掛けやがって、消費量半端ねぇの何の。1番量多く買わせてもらう事になるのはクリの蜂蜜かもな。生産間に合うか?」
「、ま、にあわせられ、っるよう、がんばりま、す、」
「あらら。ギル、」
「ん」
「サクちゃん此処にティッシュ有るから」
「あいっ…ふ、うえ…あの、もしまにあわなかったら、もちろん、よそでおぎなってくれて、いいので…!」
「あぁ」
「ありがどうございまずうううう」
「此方こそ。ありがとうな、蜂蜜売りのお嬢ちゃん」
「あ、そうそう。サクちゃん」
「?はい」
「知り合いにレストラン経営してる奴が居てな。ズミ、って名前で判るか?」
「…、え、ズミ、えっズミって!アレですよねカロスリーグ四天王のムッシュー・ズミ!…えぇっギルさんお知り合いなんですか?!」
「それも結構親しい方の、ね。私はそこまででは無いけど」
「うええええええすごっすごい…!…、あのっ!というか!ずっと気になってたんですけど!そこの壁に飾ってある写真ってもしかして、そのう、写真家のビオラさんのものでは…っ?」
「お、正解。好きなのか?」
「大好きです!!すっごく大好きです!!虫ポケモンをあんなに素敵に撮る人を知らない訳が無いし好きじゃない訳が無いです!!でもっでもあのう、あの写真は見た事、無いです…写真集は全部持ってるはずなんです、けど…」
「あぁだってアレ、撮り下ろしだから」
「…?!!!!」
「店に飾りたいから何か撮ってくれって頼んだやつだからな」
「……………」
「開いたお口が塞がらないサクちゃんですネ」
「で、話戻すぞ。そのズミのレストランがミアレに在るのは勿論知ってるだろ?それで、俺が話通しとくから、もし良かったらあそこにも蜂蜜を売り込みに行ったらいい。もう配達に行った事でも有るかどうかは知らんが、デルナさんはあそこにも花を届けてるしな、そのついでにでも話をつけてくればどうだ?」
「…、?!!!!」
「悪くは無い話だと思うが」
「あ、あのう………ぎ、ギルさんて何者ですか………?」
「んー?はは、何、しがないカフェのしがないオーナーですよ、マドモアゼル」
「胡散くさっ」
「はっはっは」
「…う、胡散臭いです…」
「ほらサクちゃんだってそう言ってら」
「ひっでぇ」