フクジとギル



「やぁ、こんにちは」

「あぁいらっしゃいませ、こんにちは。この間はいい茶葉をありがとうございました」

「いや、どう致しまして。えぇと、その茶葉を使った紅茶と…それから、そうだな、何かお勧めは有るかね」

「そうですね、アレに合わせるなら…ジョウト菓子がいいか。じゃ、少々お待ち下さいね」

「うん、ありがとう」




「…おう、いい香りだ。では、戴こうかな」

「えぇ、どうぞ」

「――…嗚呼、美味いね。よく味が薄いと言われるが、優しくて穏やかなんだよね、この茶葉の出す味は」

「紅茶の茶葉が大抵濃い味を出す中で、かなり珍しい種類ではありますね。さっぱりしたのが欲しい時はこれがいいと思いますよ、俺も。レンも結構飲んでます」

「おう、それは嬉しいね。…どれ、この菓子も。…うん、美味い。ジョウト地方の菓子もたまぁに食べるんだが、優しい味のものが多くて私は好きだな」

「エンジュの老舗のなんで、中々いいやつですよこれは」

「そりゃあいい。上品で、確かにこの茶葉にはよく合う。堪らないね」

「それは良かった。喜んでもらえて何より」




「――そういえば、ギル君。シンオウ地方のソノオタウン、知っているよね」

「えぇ、知ってますよ」

「私の娘夫婦がそこに住んでいてね。で、それの末の娘、私にとっての孫娘が、これまた大層な花好きなんだよ。今15だったか16だったか…とにかく、その孫娘が今度こっちに1人暮らしをしに来るんだがね。何でも、この街の花屋でアルバイトを始めるらしくてな」

「へぇ。向こうの花屋、とはいかなかったんですね。ソノオっつったら花の町、花の町っつったらソノオってくらいには、あそこ程いい町もそう無かろうに。町の北にはでかい花畑も広がってるし、あの辺りの土って植物育てんのに最適で園芸に打ち込むのにはうってつけの土地じゃありませんでした?」

「そう、その通り。流石ギル君だ。私もそう言ったんだがね、まぁ、他の土地に行って過ごしてみたいっていうのも有るんだろうねきっと」

「ははは、成る程。ま、花や草木ならこっちにはクノエも在るし、ミアレならフクジさんとこにも1つ道路行けばすぐですしね。ミアレ自体、でかい街にしては治安もいい方だと思うし、悪くは無いとは思いますけど。お孫さん、名前は何て?」

「サク、と言うんだ。ついこの間来た時は、こう、何と言うのかな。長さはこのくらいでな、すとーんと伸びてるのをここらでざっくりと切ってある髪型をしていたんだがね。水を遣った時の土みたいな色の髪で、目は…ウタンの実って在るだろう、アレよりもう少し濃い赤紫なんだ。…いやぁ、とにかく花が好きで、それから元気な娘でね。あぁあと、どうも昔から…そうだな、4・5歳くらいの頃にはもうかな。やたらと虫ポケモンや草タイプのポケモンに好かれる娘でね。それで、ここ1・2年くらい、手持ちのビークイン筆頭に野生のポケモン達に手伝ってもらいながら、蜂蜜集めとそれの瓶詰めをやっていてな」

「蜂蜜ですか」

「うん。…で、前置きが長くなってしまったが、それの事でちょっとギル君にも伝えておこうと思ってね」

「その蜂蜜、味見して良さそうだったらウチで使いたいですね。勿論代金はきちんと支払って」

「…キミには敵わないね、本当に。是非味見してやってくれると嬉しいよ。孫だからと贔屓は余りしたくないが、やはりどうしても肩入れしてしまってなぁ」

「いやぁ仕方無いでしょうそれは。蜂蜜、フクジ翁は味見はされた事が?」

「勿論有るよ。悪くは無い、とは思う。あとは、ギル君のお眼鏡に適うかどうかだね」

「お眼鏡、なんて大層なもんでもありませんがね」

「いやいや、立派なもんだろうさ、ギル君の判断と評価は」

「はは、ありがとうございます」




***


フクジ=福寿草=別名:朔日草=サク、ということで。
それと茶葉はヌワラ・エリヤという現存している種類です、一応。ただ産地名的にどうしたものかと思って、結局出さずにということにしました。





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