ギルとレン



ギルとレン。この2人の関係を端的に言い表すのだとしたなら、恋人同士、に他ならない。そしてそこに幾つか形容詞を含めるのであれば、仲睦まじいだとかラブラブのだとか、そういったものが相応しい具合なのだが。更に言うと、何もそればかりでは無いのだった。互いに慈しみ合う1組の男女であれども、或いは兄妹のような、はたまた悪友のような。果てには飼い主と飼い猫とも言ってしまえよう。
2人は、恋人同士、という関係まさしく日々を過ごしている。ただ、いつ如何なる場合・何事においても自分の片割れを第一に優先する、などという事は無かったし、むしろどちらも個人の主張がはっきりとしていて、それは割合双方頑なであった。これだけを見ると、衝突が多いのでは、と思うものだが――そんな心配は全くの無用物。


恋人同士だが、兄妹のようであり、悪友のようであり、飼い主と飼い猫のようであるこの2人、交際が始まってもう5年以上は経っている。その中で、小さな諍いだろうが大きな喧嘩だろうがそれらの回数は何と、ゼロだ。まぁ但し、これにレンの臍曲がりや不機嫌は含まれないのだが。
偏に、ギルに由るところが大きい。度量の広さなのか、恋人に対する甘さ極まれりなのか、とにかく彼がいつだって先に折れてきた。ったくお前はほんとに、なんて、呆れた溜息や苦笑いを零して。それでも困った事に、可愛さ愛しさ故の、であるのだからどうしようも無い話である。小さな我が儘も、たまに妙に意固地になるところが有るそんな猫娘のその頑固さ利かん気も。仕方が無いなと降参してしまう程には、愛おしい。




ただ、とは言え生憎ギルという男は、そういう単なる甘やかしと甘さだけで全てをゆるしてしまえる程、感情に大きく左右される人間では無かったから。先にも述べたように、いつ如何なる場合・何事においても互いを第一には優先はしなかったし、むしろ双方中々頑なに個人の主張がはっきりとしていたのだ。根本はそんな非理性的さを抜きにしたところで以て、成っていた。


ギルの頭の中に常に存在するのは、己の経営するカフェの事、自分のポケモン達、それからレンと、レンのポケモン達である。彼の意識は主にその4つに振り分けられている。そして詳しくするなら、そこへ時折割り入ってくる"他のもの"(この"他のもの"は実際現実にギルの前に在る)が無くなれば・姿を消せば、同様に頭の中からも出ていくので数と占拠率も戻る、という様相だった。意外と単純な仕組みなのであるが、さて措き。
己の経営するカフェの事、というのは、営む全てを指している。対してこれ以外の残りの3つは、存在の時点において、それそのものを示しているのだ。つまり個々をとやかく言わないという話、要するに包容して許諾・肯定という訳で。


『好きにすればいい。思う儘に、その様に在ればいい』


これこそ、彼の理念の根底である。先に折れるというよりも、仕方無いと降参するというよりも、この考えだから、それが甘さかのように至ったのだ。兄妹よろしいじゃれ合いも悪友よろしいおふざけも、ギルの理念、即ち主張によって許されてきた。飼い主である彼は、飼い猫の臍曲がりも不機嫌も良しとしたのである。
そしてこの考えが特に適用されるのが、常に頭の中に居続ける、存在そのものを示すあの3つだった。レンに限らず、程度こそ多少下回れど、彼のポケモン達彼女のポケモン達であっても、寛容と許容の下に。ひどく理性的なままに、だけれどとても甘やかに、そうしてそれらはギルに大層慈しまれているのであった。




カフェを休業日にした平日の、その午後、おやつ時の頃合いにて。
真っ赤なゴムボールをあむあむガジガジと噛んで遊んでいたヘルガーが、己の主人でありパートナーである青年の元へと咥えて持っていく。投げてほしいという意は当然伝わっているのだが、きちんと意思が疎通されている、しかもそれは相互においてがために、哀しきかな、長年の相棒の真顔の理由も嫌という程に判るもので。やだよそれお前の涎でべったべたじゃねぇか、と、更にはにべも無い言葉だ。ガーン!と擬音の明らかなショックを受けるルーサーだが、すぐさま今度はピーン!と何かを思い付いたらしい。




「――?!はッおい何して馬鹿ヤメロてめぇきったねぇ!」

「フゴゴゴ」

「おっいいぞもっとやれルーサー!やっちまえ!ぶはは涎塗れじゃないですかぁ店長さーん!きったね!」

「煽ってんじゃねぇよクソ猫!」

「は?!クソ?!今クソっつった?!ざっけんなルーサーヘドロかましたれ!」

「グルルルッ」

「それこそざけんなよオイ…!コテツそいつどうにかしろ!」

「…ヴァルル」

「もがっ?!」




――そう、これでも、大層仲睦まじいのである。嘘では無い。





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