シロナの誤解とようやくの理解



――1つ、誤解をしていた。決して、綺麗なものばかりでは無かったのだという事を。




『案の定、あいつはとても面白い奴だった。勿論今でもそうだがよ。だからずっと見ていたいし、つまり俺の見えないところで何かをしてほしくねぇってのが本音だし、自分から手放す訳が無けりゃああいつが逃げるのも俺は認めない。…まぁ、敢えて許してやって、追々誘導して俺んとこに戻ってくるようにはしてもいいがな』

『………、ギル、君。…それは…』

『なぁシロナ』

『、えぇ、何?』




優しさと甘さの違いは判るかと彼は薄ら笑う。一瞬言葉に詰まったけれど、そうね、と自分なりの考えを口にしていった。
その2つは同じように見えて、本質は全く逆だろう。答えに辿り着くためのツールやヒントを与える、教育者に要されようものが前者、優しさ。対して甘さとは、答えを教えても、そこに辿り着くまでの面倒は見ないから自分で考えなさいという、言ってしまえば成長を促さない、思考の放棄すら齎してしまう毒のような。余り誉められたものでは無い、とは思う。加減が非常に必要となってくるだろうと。


手元のティーカップの、綺麗な水色の紅茶の水面へ目を落としながらの論じを終えて、そこでまた顔を上げギル君へと視線を向けた――彼は、恐ろしい程にも美しくわらっていた。嗚呼、嫌な予感がする。




『ご名答。流石はシロナ、有識者だな。全く同じ見解で嬉しいね』

『…私は貴方のその笑顔が怖くて堪らないのだけれど、ね』

『はは、ひっでぇ』

『――ギル君。………これは訊かない方が身のためだって、本能とでも言うべきかしら、それが警告してるのよ。けれど、それでも…1つ、質問』

『あぁ』

『…。…貴方は、優しさを誰に向け、甘さを誰へと与えているのかしら』

『――どうだとお思いで?レディ』




質問に質問で返すだなんて。青年はうっそりと、微笑んでいる。




結局のところ、彼は純粋ではあった。そして、無垢では無かったという事。心底彼女を可愛がっていて、ただ、それは真っ白なのでは無く、どちらかと言うなら真っ黒であったのだと。何処までも一貫した人間だと苦笑すればいいのだろうか、彼女は気付いているのだろうか。贈る愛の中へ潜ませた毒を。依存性のひどく高いそれがどんなにか危ういものであるのか、自分の事では無いのに背筋がひやりとした。
彼女は、あの子もあの子で聡いから。きっと、知っているのだろう。気付いている上で、甘受しているのでは無いだろうか。彼の"世界"の、彼の"国"の、彼の傍らの心地好さと秤に掛けて、決めた事なのかもしれない。解らなくは無かった、むしろ躊躇いつつも頷けてしまうものだった。だって、好きなようにさせてくれる。肯定してくれるから、邪魔をしないから――疲れてしまったらいつでもおいで、なんて甘ったるく唆すから。


答えをあげたっていい、とさえ、彼は彼女へ囁くのだろう。だけれどその猫はプイと顔を背ける。そこまでは望んでいないとでも言うかのように、いつでも我が道を行くに違いない。それがまた更に彼の興味を引き、彼の関心を攫って、惹き込むのだろう。
危うい、けれど、その程度で留まり続けるのだろうと思う。不思議な安定性を有して、各々"世界"を保ち続け、互いを欲しながらも相手に呑まれる事無く。




(…まぁ、それでも。ギル君の本性が少し、アレ、で。それから肯定を、許容と寛容を裏返せばその本質が冷たいという事は…事実に他ならないのだけれど)





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