ギルvsレンブ



『これより来訪する挑戦者に対しては手持ち構成Dタイプにてバトルへ臨むよう通達する』


述べられた、手持ち構成Dタイプ――用意するだけ用意して、これまでに解放した事など終ぞ無かった最終段階である。
異例の通達を事務部より無線で受け取って2時間後。挑戦者の男が下から上がってきて、バトルフィールドの端へと到達した時、身をビリリと焼きながら走り抜けた感覚はどうやら本物のようであった。皮膚を舐めていったのか、内側から食らっていったのか。並々ならぬ実力の持ち主であるらしいと、その、直感。




気付かぬ内に、本当に薄らと、レンブは冷や汗を掻き始めている。――負けるのでは?そんな思いがほんの一瞬だけ顔を出したものだから慌てて払い除けた。リーグに四天王として身を置く事となって既に5年以上。両手の指の数程度には敗戦も味わってきたが、それらは全て、手持ち構成AからCタイプの内での話だ。特にCタイプでの負けの回数はたった1度のみ。接戦にて辛くも勝利を逃したのである。あのバトルは本当に素晴らしい経験であったと、レンブはずっと特別の中に数えていたのだが。


挑戦者が初めに出してきたバオッキー。燃えているかのような形と色の頭部、それに反して目元は気怠く、燻っている風に思わせる。しかし自然な力の抜き具合で以てゆらりと地に立っている様はまるで陽炎のようでもあった。今までに見てきたどの個体よりも、レベルの高い、戦いに慣れきった者の雰囲気を纏って。
格闘タイプを相手取るには、相性の観点から言えば可も無く不可も無く。しかしバオッキーにはアクロバットの技が使える。そして此方にしても、全ての習得可能なポケモンへ飛行タイプ対策としてストーンエッジを覚えさせていた。有効打はどちらにも。こうして相性の問題が1つ意味を失くす。レンブが初めに出したのは、最も長く苦楽を共にしてきた今回の手持ちメンバー、その内の1体、ナゲキである。


勝敗は嫌にあっさりとしていた。運が悪かったと言うならそれも1つ原因となろう。彼の、ひいてはレンブのポケモン達の最大の持ち味である物理攻撃の力が、喰らった火炎放射による火傷で著しい低下の途を辿ってしまったのだ。
タフさには自信の有る赤い武道家に容赦無く蓄積していくダメージ。今回の手持ちの中で2番目に鈍足の彼が、同じく赤いあの猿のスピードに付いていける訳も無く。カウンター狙いのバトルスタイルも遠距離攻撃を仕掛けられたのではどうにも上手くいかない。ならばと地均し・ストーンエッジを主体に攻めてはみるも、無念。追加効果を狙っての選択ではあれど範囲も威力も地震の下位互換でしか無い技と、火力に重きを置いた命中率の低い技ではどうにもならずにナゲキは地に伏せる事となった。彼が意識を失う最後に見せたのは、哀しきかな、腕の火傷へ向けるひどく恨めしい目なのであった。




2番手にはコジョンドを。唯一バオッキーの速さに付いていく事が出来よう、或いは上回る場合も有り得よう。思惑通り、比較的華奢なその武術家は単純なスピードにおいては火猿に勝った。――そう、単純なスピードにおいては。


腕の長い体毛を鞭のように扱う器用さと繰り出す速度は目を見張るものが有る。はずの、コジョンドであるが。当たってはいるのだ。だけども、バオッキーはケロリとしたままなのである。此方の攻撃力の高さと相手方の耐久力の低さを考えれば、それは些か、おかしい。格闘家であるレンブが行き着いた答えは、攻撃をいなしている、だった。
当たっているだろうに堪える様子が無いのも頷ける。力の流動を上手く受け流す事で、ダメージを格段に減らしているのだ。攻撃をいなすのに重要となってくるのは速さでは無い。優れた見切りの能力と、流れや先を読む能力である。正規の技である見切りとは違う。積み重ねられた経験によって次第に備わるもの、あくまで能力、言い換えれば技巧。強さの証の1つに違いなかった。技や能力値ばかりを磨き高めても、それだけでは、負ける時は容易に負ける。挑戦者のバオッキーは根本から、基礎の部分から鍛え上げられているという事に他ならない。


僅かに焦れたらしいコジョンドが鋭く鳴いた。指示を寄越さないのなら勝手にやるぞと言わんばかりの彼に、レンブが解っていると技の名を叫ぶ。あのスピードに乗せてドレインパンチ。コジョンドが得意とする内の1つである。光を伴う正拳突きが疾く繰り出された。
――挑戦者の指示が飛び、バオッキーが跳ぶ。地を第一の足場に、そして第二の足掛かりをコジョンドの腕にして。男が指図したのはローキックの技である。ドレインパンチを躱すための後方宙返り、いわゆるバク宙は、単にそれの前座だった。重心移動で着地の勢いを殺す事無く、地を這うように赤が体を回し下段蹴りがヒットする。バランスを崩して前のめりになったコジョンドの鳩尾へ、もう1度だけ回転したバオッキーが、抉るようなアッパーで炎を纏った拳を打ち込んだ。




後で聞いた話によると、今回の挑戦者ギル・ウォルターは、10年程前にリーグへやって来ては、チャンピオンの先を行った者のみが通される部屋へと足を踏み入れていたのだそうだ。そしてその3年後、再び姿を見せた彼は通称チャレンジモードを申請して、結果またも頂の座に辿り着いたのだと。道理で、と、レンブは一笑した。気分は妙に晴れやかである。


手持ち構成Dタイプの通達の理由が知れたから、というだけでは無い。バトルは相手方5体を残して負けを喫したが、全力を出し切ってのこの結果なのだ。それに、あの後に据えたカイリキーまでもが地に膝を着き、4体目のダゲキにしてようやくとバオッキーを戦闘不能に追い込む事が出来たのである。満身創痍の状態で辛うじて立っていたダゲキが後を追うように倒れた時、レンブは彼へ最大の賛辞を送ったのだった。
ストーンエッジを瓦割りで粉砕され、岩石封じの大岩をアクロバットのいい踏み台にされ、岩雪崩を地に潜って回避され。しめたと地震を放たせても、青い武闘家が足を踏み込むとほぼ同時に地中から離脱されてと悉くのバトルであったのだ。回復したら、ダゲキには彼の大好物である芋焼酎を1本贈る事としよう。ボールへと戻しながらレンブはそう考えた。そして、挑戦者を見据える。実に強き者だ。むしろ此方が不足なのやもしれない。


残るルカリオと己の相棒ローブシンはニドキングによって打破された。意地っ張りらしいその紫の怪獣は、レンブが手持ち最後の1体となったエース格を場に出した際に、トレーナーの男の挑発と煽りによって元々荒々しかった気迫を更に膨らませたのである。正直止めてくれと言いたかった程だ。
とにかく、奴は暴れた。ニドキングの脅威の内で最も大きく厄介なのは、使える技のバリエーションだと言えよう。特徴に数えられる額の角によるもの、2足歩行であるからパンチも可能、太く逞しい尾が振るわれてのテール系。それだけでは無い。冷凍ビーム・火炎放射・10万ボルトと有名処や、身に持つ毒・地面の他に、格闘・水・ドラゴンタイプの技さえも繰り出せる。これでニドキングが元来からのハイステータス種族であったなら――考えるのも恐ろしい事である。似たようなスペックでいて且つその上を行くポケモンにはバンギラス等が居るかと、後に頭の中の図鑑を捲りつつ格闘家の四天王は1人唸った。




此度のバトルを省みながら回復装置を起動させ、疲労困憊の長年のパートナー達を労いボールをセットする。そして彼自身はすぐさまモニタールームへ。敗した四天王が自主的に立ち入るその部屋に居たのはカトレアとギーマであった。無線で通達を受けた2時間程後に訪れた挑戦者、自分よりも先に此処へ来ていた2人。つまり単純な話、四天王1名を1時間で下したという事になる。この数時間の内に一体何度、末恐ろしい、と思ったものか。無意識に呟いていたらしいその言葉に、珍しくカトレアとギーマも苦笑を零す。


シキミのバトルルームに映像が固定された大きなモニターには、彼女のデスカーンが目を回した瞬間と、吹き荒ぶ砂嵐――そこに佇む浅い緑の鎧竜が映し出されていた。




***


ヘルガー・バオッキー・バンギラス・ニドキング・ガブリアス・ニドクインの砂パ寄り構成で来てる。最初に対カトレアで悪無双、次に対ギーマでスピード系3体。対シキミではバンギラスとニドクインだろうと思われる。





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