クー・エミヤ



「――…!ッおいアンタ、もしかして女に助けられなかったか?!」

「、な、ぜそれを知って、」

「…その女、銀髪で青灰の目だったろ」

「…あぁ。私よりも幾らか年下のように見えたが…」

「ハ…」

「………ランサー?」

「ったく…こいつぁあ、一体誰が仕組んだのかってくらい出来すぎた話じゃねぇか…」

「知り合い、か」

「知り合い、ね。…もっと言やぁ、俺の師であり、愛する女の1人であり、ってところだがな」

「――…!もしやそれは、」

「あぁ、」




「――シロウ」

「………その名では呼ぶなと言っただろう」

「いいじゃないか、キミと私2人だけなのだし」

「良くないさ、いつであろうと」

「固いね。それとも、私にそう呼ばれるのは不快かな?」

「…そういう事を言っているのでも無いんだがな」

「ふふ、私だって、不快か否かを訊いただけさ。答えが違うだろう、はぐらかさないでほしいね」

「………。…はぁ、」

「溜息は良くない。キミの幸せがキミから逃げていってしまう。それで?」

「………」

「………」

「――…、別段、」

「うん」

「貴女にそう、呼ばれるのは、不快では無い。…むしろ心地好い程だ」

「おや、やけに素直になったね」

「それを強いたのは貴女だろう」

「では、そういう事にしておこうか。ふふ、可愛いなキミは」

「…可愛いは止してくれ」

「あはは。しかし本当の事だよ、キミはとても可愛い。…シロウ。キミは哀しい男であるから、私はキミを実に愛しく思う。…さぁおいで、」

「………貴女が、此処へ」

「キミがそれを望むなら」




その時マスターから微かに香ったのはひどく知ったそれで。再生の『ベオーク』と守護の『エオロー』、掛けられた2種のルーン、これらがこいつを密かに守っていた。本人は気付いていないのか、しかし何故、とやはり再びに問うてくる。タネ明かしといこうか。掛けられたルーンの事を伝えれば、憶えは無いと少しだけ眉を顰めたから、恐らくは内緒のままにしたのだろう。あいつらしいと思わず笑ってしまった。生前己にも、私事に関わらせまいと眠り薬を使ってきた程だ。そういった類いを好まぬようで、今でもそれは変わらずにいるようなのが、掛ける魔術を気取らせないだけの力を未だ有しているのも同じく、何処か嬉しい。
そう遠くない場所に居るに違いない、と探してはみても、どうも見付けられないでいた。まぁあいつの事だ、きっと探知阻害や遮断の魔術でも用いているのだろう。所々に懐かしくも愛おしい魔力の痕跡、残滓を感じるも、大元の在り処は分からない。誇らしいような腹立たしいような。とっとと見付けて抱き締めちまいてぇのに。




ふと、彼女を見遣る。幾らか前から何処か浮き足立った、否、傍目には一切そうとは見られないだろうが、何と無く、嬉しそうにしているように感じていた。待ち侘びている、と言えばいいか。訊ねてみても、楽しげに笑うばかりで答えてはくれない。一体何が彼女をそうさせているのだろうか、呆れたものながら気になって仕方が無かった。
おや、と青灰が僅かに見張られて。まるで困った我が子を見るかのような目で、何という顔をしているのかと笑われる。奥には静かに甘やかなものを湛えて、彼女は私の頬へと両手を滑らせた。捨てられた仔犬のようとは、まさにこの事を言うのだね。と。…そんな顔を、私はしているのか。本当に呆れたものである。





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