エミヤ



つい数日前に校内を騒がせたばかりのところ、今日も今日とてまた、今度は別の人間の来訪によって同じ様相となってしまったのである。前の者は、醒めるような蒼の髪と真紅の瞳。しかしその男は、まず褐色の肌と色素のひどく抜けた銀髪が人の目を引いたのだった。
――大柄で、何処か神経質そうな眉間の皺だ。ダークレッドのマフラーを彩度の低い黄土色のトレンチコートの襟元へ巻き込んで、ボトムと足元は黒。シンプルでスマートな装いにインテリ系かとも思ってしまうのだが、ガタイの良さと精悍な顔付きの組み合わせとなれば、また違った風にも見て取れよう。




「やぁシロウ、今日の迎えはお前なんだね」

「キミの愛弟子では無くて残念だったな。すまないが、どれ程落胆しても私がアレに変わる事は無いのでね。少しの間我慢して頂こう」

「おやおや、勝手に拗ねるのはお止しよ。私はお前の事だって愛しくて堪らないというのに、全く」




困ったように笑い、シロウと呼んだ男の腕を叩いて撫でる。彼はわざとらしく肩を竦めてから、小さく口元で笑んでその華奢な手を取り、己の指を絡め付けるのであった。
これでは二股女と噂が流れてしまうな、などと少女は思うのだが、特に気に留めはしない。男もそう考えている彼女を察しているし、自分とて至るものだし、だからと言って手を放すつもりは一切と無いし、このひとがそれを歯牙にも掛けない事を解っている。


――人間として好んでいて、母として愛していた。前の世でも此の世でもだ。記憶が在る限り変わりはしない。仮にもし忘れてしまったとしても、きっと魂が憶えていて、彼女を前に、叫んで己を叩き起こすのだろうから。
貴様だけの大切な人では無い。と、シロウは彼の男を鼻で笑うのだ。




ゆっくりと歩を進めながら他愛の無い話をする。アーネンエルベに飾る観葉植物を増やそうと思っているのだが何か要望は無いか、だとか、新メニューを考案して試作中であるから味見をしてほしい、だとか。どちらかと言うなら男が饒舌だった。気を張っていない、他には見せない甘えた様子で、ぽつりぽつりとよく喋る。そんな彼に、彼女は逐一穏やかに微笑ましげに返すのである。




「今度、母さんも連れて遊びに行くから。その時には是非お前のお勧めを振る舞ってほしいな」

「期待を裏切らんよう精一杯努めるとしよう」

「勿論サーブもシロウ、お前に頼んだからね?」

「…ふむ。そこまでしては、幾ら何でも特別に贔屓のし過ぎでは?他の客がどう思う事やら」

「作った人間が奥に引っ込んだままでいる気かい。私はよく出来た息子の事を母さんに紹介して、あわよくば自慢もしたいと思っているのだけど、ね」

「………そう言われてしまっては、従う他無さそうだ」

「ふふ、頼むよ」





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