クー



その女の胸とは、大方の者に言わせてみれば、まず以て豊かとは表せない。貧相、とまでは流石にいかずとも、標準よりかは幾らにか小さい方であるだろう。大きな手が膨らみをすっかりと覆ってしまうのだ。小振りと言えば聞こえはいいが、と、ふにりふにり柔らかみを弄びながらに男は思う。
指先や、指と指の合間を掠る小さな固さ。肩口、白い肌に噛み付くと、すぐ傍で熱いのだろう吐息の洩れる音がして――そしてそれは何処か、困ったように笑ったのだと、そう聴こえて。




「…お前は本当に、噛み癖の有る子だねセタンタ」




強めに齧り付いた事を暗に非難でもしているか。などと考えつつも、素知らぬ振りのまま舌先でなぞれば歯型の凹凸がよく判った。


確かに、どうもすぐに噛む嫌いは有るのかもしれない。堪らなくなってしまって、本能によるか、とかく抗う事無く衝いた想いのままにしてしまうのである。特に、こういう時などは。
白い肌に赤い歯列痕。それがどうにも――そう、安心する。と言ったらこの女は、やはり困ったように笑うのだろうか。そしてそのようでいて、仕方の無い子だと甘んじてくれるのだろう。


彼女は怒らない。度が過ぎればやんわりと窘めてはくれど、初めの内は幾らでもゆるしてくれるから。――レンの身体に噛み付くのは、安心する。この行為は決して、劣情ばかりのものでは無い。





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