クー



クー・フーリンの両耳朶から1つずつ下がっている大振りのイヤリング。揺れる銀は魔石で成るものである。


その昔、そう彼の生前だ。クーが肉体を持ちそこへ魂を宿していた頃、そして影の国スカイにて修行に明け暮れていた時の事。それは己が師スカアハからの贈り物だった。上等な薄絹に柔らかく包まれていたのは全く同じ形をした、棒状だが下へ行くにつれある程度膨らんでいく1組の耳飾りで。長さや太さは自分の親指とほとんど等しい。これは、とスカアハを見ればやはり常と違わず笑みを浮かべている。




『随分と質の高い魔石みてぇだが?しかも、微かにアンタの魔力を感じるな』

『夫に採掘してきてもらったものを、私が更に魔力を与えながら研磨したのさ。まぁ魔力を与えたと言っても、ほんの少し祝福と祈願を込めただけなのだけどね』




それをお前へ贈ろう我が愛弟子、そう女は言った。はて、贔屓はしないのでは無かったか。からかい混じりに訊ねれば笑って返される。スカアハのそういうところが好きで、だがしかし、どうも腹立たしい。思わずクーが眉根を寄せると、一瞬彼女はきょとんとした後で、今度はくすくすと喉で笑って。




『何が気に障ったのかは、まぁ触れずに置くとして。…別段贔屓をした訳では無いよ。ただ、これはお前に贈るべきだと。――クー・フーリン、クランの猛犬にして光の御子よ。汝が先は既に定まっている。…師として母として、少々早かろうが私からの小さな祝いさ。あぁ、それと我が夫からも、ね。どうか受け取っておくれ、可愛い可愛い私達のセタンタ』

『、………おう』




珍しく、僅かに照れたような、本当に薄らと耳を赤くして目を逸らしながら。その身・肉体・力、そして心と精力。それらはもうそろそろ、誰よりも雄々しく猛々しく、恐るべきところにまで辿り着く。そんな男、だけどもやはり、まだまだ幼さを残していた。そうさせたのはまず他ならぬスカアハ、そして多少ではあるがその夫もだ。
眩しげに目を細め、ひどく柔らかに甘い笑みの己が師。間近に居たクーの頬へ手を伸ばし、ゆるりゆるりと愛しげな所作が、振り払ってしまいたくなる程に恥ずかしくて堪らない。だがそうしないのは、そう出来ないのは、それがどうにも心地好くて馬鹿みたいに嬉しいからで。本当に、敵いやしねぇ。クーはゆっくりと目を瞑った。


空いていた左手で己の右手を静かに浚われ、武人のものでありながら何処か美しいままの指が自分の指を絡め取っていく。身を屈め、そっと肩口へ頭を載せて首元に擦り寄る大きな身丈の少年。
嗚呼愛しや愛しセタンタ。母なる女王が同じだけ静かに微笑いながら、我が子同然の男を抱き止めた。カチリ、微かに魔石が音を立てる。








――無意識に指で弄んでいたらしいクーに、和実がふと訊ねた事から思い返した遠い過去、彼の耳元を飾るイヤリングの始まりの記憶。それを語って聞かせたなら、今やいい歳したとすら言ってしまえよう年齢の割にはあどけなさを残す女は、いやったらしくニヤニヤと、と思いきや予想を裏切り口を尖らせていて。ひどく懐かしげに、えらく穏やかに、いたく愛おしそうにしながら話す男に残念ながら大嫉妬したとじっとりした目が向けられる。そんな和実にクーはニヤニヤと煽り文句を投げ付けた。




「なァんたって俺が愛しくて愛しくて堪んねぇらしいしィ?相思相愛だったしィ?」

「キイエエエエエエエエエくっそ腹立つウウウウウウ!!!!!!あたしだって…!!あたしだって相思相愛ですけど!!!!!!ラブラブですけど!!!!!!」

「はいはい俺には負けるけどなー」

「クッソ…!!!!!!クッソ…!!!!!!否定出来ねぇから余計腹立つ激おこプンプン丸ムカ着火ファイヤー」

「相変わらず意味分かんねぇが着火とかお前マジでやりそうだからこえぇんだけど」





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