士郎



そういえば、と。ランサーの言葉に思い出す。ほとんど同じ事を、彼女も言っていた。流石師弟といったところなのか、或いはその関係性など挟まずに、単に気質や価値観が非常に似通っていただけの話なのか。


『敵方は敵方。…しかし、敵方であろうが好ましい者は好ましい。汝在るが儘に思えよ、示せよ。私は斯く在るべしと思っているよ、士郎』


あの、母であり姉である女性も。この男と同じく、感情と戦闘は別として、如何なる相手であっても頓着無く躊躇無く屠るのだろうか――そう考えて、ゾクリとする。怖い、悲しい、寂しい。そんなように感じるのは何故だ、一体どうして。あんなにも優しく、穏やかで。だからだろうか。そんなあの人が、あの身で、あの手で、誰かの命の灯を何を思いながら消してしまうのか、それが怖くて悲しくて寂しいと。




(………、嗚呼。そうか)




彼女はいつだって最初にまず公平さを示した。そして厳しいままの時も有れば、甘くしてくれる時も有る。つまりそれは、初めは必ず分け隔ての無いという、根底に据えられているという事。ランサーは、クー・フーリンという英霊は、如何なる場合においても己の感情と信念の一切揺るがない、理屈や建前なぞ知ったものかという、いっそ清々しく潔い男で。あの人も、そうなのだ。それはそれこれはこれと静かに笑う様を容易に想像出来る。
アンタ達は、本気で殺し合う事だって吝かでは無いと言うのか。なんて問うてみたい。返ってくる答えは、肯定でしか無いのだろうが。そして彼女と彼は、平然と、そこには何がどうにも無いかのようにでも至って変わらない表情でいるのだろう。その上で、仮にどちらかがどちらかを自らの手で屠ったとしても、骸を愛しげに抱きながら相手への甘い想いを零すのでは無いか。




(…ほんと、想像に易いったら無いな。…レン姐がランサーの頭を膝に載せてさ。きっと、あの人は悲しいとか寂しいとか、そういうのも無くて。見てるこっちが切なくて苦しいばっかで、さ)




柔らかに細めた目元。優しい、優しい声音で囁くのだろう。愛しているよと、また相見える事を願おうと。





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