ギルガメッシュ
戸惑うとまではいかないが、少しばかり訝しくは思ってしまう。言うなれば、どういう風の吹き回しなのか。平素あれだけ小馬鹿にし見下げた目を向けながら、しかしそれでいて自分に構えとばかりの言動であった男が、今などただ柔くスカアハを抱くのみである。普段からこうであるならどんなにか楽なものか、などと考える。
嫌っているでも厭うているでも無い。ただ、扱いに少々面倒な相手ではあった。そんなところであったから、彼女は至って普通にギルガメッシュを受け入れ、胸元の美しい金糸に指先を通していた。それは細く柔らかで、とても、触り心地がいい。愛弟子とは違う質、そう、これは元マスターのものとよく似ている。色こそまるで違えど。
「貴方の髪はとても質が良いから、触れていて心地好いものです」
「…貴様の髪も中々悪くない」
「…おやおや。まこと、如何されたかな英雄王。こう言うと機嫌を損ねてしまうやもしれないが、普段とは全く違う様ではありませんか。ふふ、肉体を得てしまっては、やはり熱も出ましょうか」
「戯け、肉体を得ていようが何だろうがこの我が熱など出すものか」
「左様か。では貴方には一切の用心も必要が無いものとして…しかし私は気を付けなければならないかな」
「…そうしろ。不調で寝込んでも我は看病なんぞせんからな」
「元より貴方のそれを期待などしておりませんよ、英雄王。カズミやクー、ディルムッドがしてくれる事でしょう。…あぁ、アーチャーも居たな。甲斐甲斐しさや卒が無さを取るのであれば、ディルムッドかアーチャーを頼るのがいいか」
「贋作者はならん。槍兵共もならん」
「…では、カズミに頼みましょう」
垣間見るものに、仕方の無い御仁だとスカアハは僅かに苦笑した。本当に、面倒な人。