クー



体は怠く、腰や下腹部の鈍い痛み、喉も乾いて掠れていた。しかしそういった事後に襲うものを特に気にした風も無く、剥き出しの肩に触れてくる唇の優しい動きの擽ったさに少女はくすくすと笑う。とうの昔、遥か遠い過去に成熟を極めた先の老成を達してはいるのだが、今の姿では色気や艶などよりも愛らしさを多く伴っていて。あーくそ、なんて、膨れる庇護欲に任せて細い体をぎゅううと抱き締めた。そして男は、項にも唇を這わせる。優しく、柔らかに。




「もっと太れや女王サマ」

「元、だよ。今や私はただの女子中学生だ。…食べている方だとは思うが、体質かな、余り肉が付かなくて。私も少し困っているんだ」

「こんなに細くちゃ色気もくそもねぇ。…あと、抱いてる内に折っちまいそうで怖い」

「ふふ。色気が有ろうが無かろうが、お前は私を抱くだろうに。それと、お前にしても、最早あの頃の程の力は持っていないのだから。男と女、大人と子供の差は有れ、それ程度で駄目になるような身体では無いよ、クー」

「…。…にしても声掠れてんな」

「誰のせいだい、誰の」




俺だな、と、飄々として言うすぐ背後のクー。やれやれと少女は苦笑する。声は余り上げていないが、とにかくたくさん汗を掻いたのだ。水分が欲しいと要望を零したレンのこめかみに1つキスをして、彼は望みを叶えようと体を起こした。




昼頃になってようやくと、思い出したようにブレザーのポケットから携帯端末を取り出してみると、新着メールが8件表示をされていて。嗚呼学校へ復帰したなら、と思わず苦笑する。自惚れでは無く自他共に認める事として、自分は大層慕われているのだ。事情聴取からそう易々と解放してはくれなかろうなと考えて、それでも少しの嬉しさにレンは微笑んだ。メールには大部分、此方を案じる言葉が綴られている。中でも、暴走気味らしい1人が警察を呼ぼうかと、文面越しでも非常によく伝わってくる焦燥と奮起の様子には流石にまた苦笑が洩れたのだが。


着込むのが最早癖のようになっている、暑くない間の常のインナーであるハイネック。それの上にYシャツとカーディガン、制服のスカート、ネクタイはしておらず靴下も履いていない。故に、脚は伸ばさず小さく折り畳んで纏め、ブランケットを巻き付けて保温に努めている。
そんな恰好のレンをソファーで脚の間へ収め緩く抱き抱えている男は、時折髪に頬を擦り寄らせたり、耳の裏や肩辺りですんと鼻を鳴らしたりする以外には特に何をするでも無く。




「クー」

「…ん」

「お前、どうやら不審人物認定をされてもいるようだ」

「…、げ、マジで」

「あぁ。…明日は学校へ行くから、夜辺りには帰りたい。送っていってくれるかい、クー」

「…」

「そんな目をするんじゃない。我が儘はお止し、良い子だから」

「そんな目ってどんな目だよ、見えてねぇだろ」

「…セタンタ、」




まるで聞き分けの無い子供かの如く、拗ねた声音で、これ以上は聞かないと言わんばかり、逃げるように肩口へ顔を埋めてくる。全く困ったものである。咎める色を含んだ少女の呼び掛けに彼は無言を返して一切応じない。――しばらく逢えずにいたが故の反動か、一層子供っぽくなっているらしかった。これは溜息を吐いたとて赦されるはずだ。レンは躊躇無く、深く息をつく。
すぐ横、視界の右に入り込んでいる青はいつだって少々硬い触り心地である。それを撫でながら、少女は男を言い包めに掛かるのだった。





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