和実



あたしにとっての1番最初、王様的に言うなら原初に産まれた世界、そこで30歳を目前にして不慮の交通事故で死亡という無念レベルの死に方を経てからずっとずっと繰り返してきている事。完全に憶えているものだけでも8回、そして今回も含めたら全部で9回の、いわゆる転生というやつを経験していた。どうしてこうなったかは分からないし、気になると言えば気になるけど、でもまぁ取り敢えずポジティブシンキングだ、おかげでたくさんの体験が出来た訳だから――主に萌え的な部分で。
最早テニスしてないテニスプレーヤーの卵達とか、一大マフィアの暗殺部隊員達とか、ポケットに入れて運べるモンスター達とか、スタイリッシュな戦国の武将達とか、悪魔に対抗するための力を身に付けようと頑張る候補生達とか。


そして今やあたしにとって最も身近で、最も繋がりの強く、最も愛すべき人達――その1人、青い髪と紅い目のイケメン兄貴、クー・フーリン。ポジションというかジョブというかそこら辺の共通点群で言えば黒髪金眼の緑のムキムキカワイコわんこちゃんのが好きだけど、彼も彼で、いやむしろ彼女絡みでは1番、好きだ。うん。眼福の元な。


彼女、というのは、本来の展開を知る者からしたらイレギュラーに他ならない存在だった。まぁそもそもあたしが転生なんぞしてあの世界に生まれ出た時点で色々と狂い始めて、歪みでも何でも生じていたのだろう訳だけど。そこはさて措き。いやてかまずあたしがイレギュラーだけどな!ってだからそれもさて措き。
魔術師の魔術師による魔術師のためのマジカルウォーズが崩壊の引き金だったあの世界に少なくとも3回、転生の記憶が有る。


あたしのこれの遍歴は大体にして無念の連続というか、またかおいコラな死に方ばかりで大分散々なものだった訳だけど。30歳を目前にして交通事故死、から始まって、1回目の転生先でも30代前半にて交通事故死、2回目では30代前半で自分の上司を庇って死亡、3回目が大火災に遭遇して焼死、4回目が1番長生きした転生先なのだけど60代半ばに急の病死、5回目も20代後半で急の病死、6回目はちょっと特殊で契約違反による死亡と魂の追放を受け、6回目でも大火災に遭遇して焼死。おいあたしを老衰で大往生させろやバカヤロウ。何度振り返ってみてもマジ散々である。
それで前回、例のマジカルウォーズ。3回目と6回目と7回目が同じで同じじゃない世界に生まれた訳なのだけど、前回以前での死に方が両方共大火災で焼死とか笑える。そしてそのどちらも完全に一般人であったもので、特に最初の時は全くの記憶が無く。6回目では色々と思い出す事が出来たには出来た。のだけど、大火災直前だったからどうしようも無かったのだ。黒髪金眼の緑のムキムキカワイコわんこちゃん張りの怨嗟恨み節を吐きに吐きまくったのを最後に意識は暗転していった記憶は割と新しい方である。闇堕ちはしなかったけど。つかして堪るかっつの。


1つ生前の世界で、あたしは彼女を『召喚』した。
どうもその時の自分のスペックはかなりによろしいものだったらしい。色々ここでも頑張りましたよ本当に。魔術師1代目、市内在住の華のJK。魔術回路(端的に言うと神経とか血管みたいなやつ)は多くは無かったけど、マナをオド(マナがタンパク質でオドがアミノ酸とでも思ってくれれば)にするこの転換過程の効率が非常に高かった(何度も転生してきて、何らかの補正か魂への付加かでも有ったんじゃなかろうかとあたしなりの推測だ)みたいで、魔力量は海レベル数歩手前だったあたしはそりゃもうガンガンにやりました、というか、彼女にガンガンにやって頂きましたとも。質より量ではあれ、召喚の枠になったジョブが非常にコスパの悪いやつだったからむしろそれで良かったと言ってもいいくらいだ。


自分が特別であるとは今であっても思っていないけど、その時の転生で今回のこれは重要なものであり、スペックの中々の高さも何かしらの意味有ってのファクターだと考えていた。というかまず死にたくない。1度でいいから老衰で大往生したかった。精神摩耗してる場合じゃねんだよゴルァアなんて感じで奔走した訳である。幸いキーキャラの1人だった青年とは幼馴染みになっていて、打算込みとは言え普通に好きな相手だったし、お互い超仲良しで、彼はあたしの言う事をよく聞いた。一応真っ当な道の先の芸術に導いてやろうとしたらそれも成功。キタコレ状態の後、彼女を召喚して助けを乞うたり、フラグを折りまくったり、いい感じで思惑通り計画通りに事が運んでいって。この戦い、我々の勝利だっ…!
――その結果、平定後あたしは50代にて病死した。ざけんな。オイ。




現状での最後の転生先、つまり今世。この世界はこの世界でこれまた特殊というか、面白い事になっていた訳で。あたしであっても初めてである。混合世界、つまり本来交わるはずの無いAとBが一緒になっていたのだ。最初の転生先と最多の転生先。この2つの世界、しかも後者においては前世から継続した形を取っていたのだけど、これらが1つの世界軸上に成っていた。キタコレやったね…!生きてて良かった、いや転生して良かった…って一概にも言えないけど。
回路もほとんど無い魔術も碌に使えないというのを鑑みるに、基盤は1回目の転生先の世界であるらしい。馴染みの深い方に存在する、むしろマジカルウォーズの開催地であったその市も地図には載っていなかったから。そして本来は霊体寄りのものであった彼らも、出自こそ孤児院組が多かったけど、出生できちんと肉体を得ているのは明らかだった。流石に泣いてしまって、兄貴やらマイスイートハニーやらに笑われて頭撫でられましたご褒美ですありがとう。


前回=初めて転生した時とは、世界は同じで同じじゃない、要するにパラレルワールド。それが今世の生まれ出た処だ。あの頃親しくしていた人達と今のあたしには何の繋がりも無いのだと思うと結構寂しいものが有るけど、まぁ仕方の無い話である。それに、代わりに今回は彼らが居る。苦楽を共にした事も有る、そしてその記憶を持っている――平和な今世で仲良く生きていけるのなら、これ以上の話は無い。


段々と顔見知りとの再会が増えていき、恐らくは全員揃ったなというところの中。唯一、イレギュラーの1つであった、彼女の姿、その席がぽっかりと空いていて。悲しくて悲しくて堪らなかった。何故あの人は居ないのだろうかと。


だけど誰よりもつらそうな顔を見せたのは、クー兄だ。一時主人であったし、伸ばした手を取ってくれた彼女とは中々に親しくさせてもらっていたあたし以上に。何故なら彼はあの人を愛していたから。生前クー兄は彼女を師とし、後に愛人とし、いたく慕いひどく慈しみ、時には甘え。そんな相手が、他の者達が揃う中で世界の何処にも居ないのだ。彼は平気そうにしていたけど、それでも顔や視線に出るものは出るし、気付く人には気付かれていた。
彼女に救われて今が在るようなマイスイートハニーは勿論の事、皮肉屋なガチムキオカンも彼女を心の寄り処にしていたから割と沈みがちだったし、何様我様王様だって素直になれないだけで彼女が好きで構ってもらいたくてだのに何故貴様は居らんのかなんてたまにブチ切れて。一応大元は同じでただ世界線が違っていた、義賊集団の頭領であった彼なんかも溜息ばかり。皆、あの人の名前を口にはしなかった。うじうじしてんじゃねぇ!と一喝したいところだけどあたしも同じ気持ちだったので出来る訳が無かったよバカヤロウ。




(――ねぇ、レン姐)




貴女は今何処に居ますか。
皆、貴女を待っています。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -