日吉
他人が苦手と言うべきか、まず得意という事は無いし、人見知りの気や思春期特有のものも有るのかもしれない。とにかく、余り関わりを持ちたくないという意識の大きいタイプの人間だった。それによる損得は何度も有ったが、今までどうにかしてきた・どうにかなってきた、のだ。
他人が苦手、というのが、全く無いものかのようになるのはあの人にだけである。これは不思議な事であったし、彼女だから、で納得出来る事でもあった。
「――神谷先輩!」
「…おや、日吉君」
「あの、こんにちは」
「はい、こんにちは」
「えっと、その、」
「うん」
「俺と一緒に、昼飯食べてくれませんか、」
「ふふ、いいよ。一緒に食べようか」
「…!ありがとうございます!」
「何処で食べる?」
「先輩と一緒なら俺は別に、何処でも…」
「じゃあママ此処で食べて!日吉君も一緒に!」
「…どうする?」
「大丈夫です」
「そう、なら此処で食べようか」
「ッしゃあママゲット!!!!ついでに日吉君もゲット!!!!」
先輩を嬉々として誘い、今やガッツポーズの女子とその一団はクラスの他の面々から嫉妬のブーイングを受けている。他人は苦手だ。が、先輩が居るのであればどうとでもなろう。この人の傍はとても落ち着く。だからきっと、何が有っても平気だろう――姉のような母のような、彼女の隣にさえ居られれば何だって、大丈夫だと言えるんだ。