イレギュラー



此度の聖杯戦争は正しい姿に非ず、少女は斯く語りき。雄弁なる演説であるが、問答も挟んでの相互としたものである。疑問、困惑、一蹴、納得。長くは無い間に多くの事が詰め込まれた。情報が踊る、事実と真偽が踊る。
少女はこれを悲しみと怒り(ただ綺麗なままでは無く、知る者には知る汚さも大分に含まれている)で以ていたが、そのサーヴァントは、或いは無感情にも眺めていた。彼女にとっては居合わせたに過ぎない事なのだ。此度の己が主を慈愛的に見守るではあれど、直接の知り合いが居るでも無い、悲願を持って臨んでいるでも無い。故に、中々無感情にもなるものである。特に何を思うでも無しに、マスターの少女を陰より討たんとする気配へ注意をしつつ、傍らに立つのみ。無用であるから口を開く事も無い。それはまさに影の者とも言えよう。まぁ何も、スカアハの統べる影の地というのが確かにそういった世界であるというのでは無く、単に隠喩しての場所ではあるのだが。




「………っ、」

「…どうしたマスター」

「レン姐…!ぐぎぎやっぱりちょっとお願いしゃっす…!」

「心得た。その間の自己防衛、頼んだよ」

「ウィッス!」




悔しげに顔を歪めた少女へ穏やかに笑い掛ける。それだけで和実の荒れた心は落ち着きを取り戻すのが不思議なものであった。流石っすわ…、なんて彼女は内心で。この場において己が対処を最優先にすべきは狙撃とアサシン、特に前者だ。弾丸を炎で溶かせはしても、その速度に反応出来ないのでは意味は無い。頭部・胸部・腹部にオートで防護が張られるよう魔術式を組む和実の作業が終わったのを見届けて、スカアハは陣を展開させる。




「…やはりキャスター、何か策を講じていたようだな」

「案ずるな、そちらに害為すものでは無い」

「ほう。ではどんな」

「これらは全て私自身に効果が及ぶものだよ。意味は、解るかな?」

「…能力を上げた、とでも?」

「察しの通りさ」




此度キャスターとして馳せ参じはしたが、貴方のようにランサーとして、或いはそこな征服王のようにライダーとしてもクラス適性を持つ武人の端くれだ。軽んじて見るのは構わないが、それで痛い目を見ても私は知らないよ、ランサー。


そう不敵に笑いながら手元に真っ赤な槍を1本現出させた女に、槍兵、剣兵や騎乗兵、それらのマスター、また隠れる者共は各々表情を変え。彼女のマスターは1人ニヤニヤとほくそ笑むのである。





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