イレギュラー



時と月、今此処に満ちれり。足下には魔方陣、脳内には詠唱文、胸中には確固とした覚悟。少女は1つ深呼吸をし、目を閉じた。――さぁ、事を始めよう。




「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」


『降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返す都度に五度。ただ、満たされる刻を破却する。――Anfang』


「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ」


『誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者』


「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、」




天秤の守り手よ、と。唇が震えた刹那、それは集束を見せる。徐々に増していっていた大きな魔力の奔流が、ここに来て形作っていく――風と、光と、力の渦。身体は軋み、痛み、だのに歓喜しているかのような。だってこれは、待ち望んだものであるから。


静か、そして穏やかな、きっとそれは女の声だ。




「――問おう。其の方、汝が私を喚んだに相違無いか?」




肯いて、見据える。彼女はふ、と口元を綻ばせた。まるで、あれは慈母かの如き。
少女とさして変わらぬ身丈の英霊が小さく頷く。しゃらりと、微かに装飾の擦れた、綺麗な澄んだ音。




「左様か。――サーヴァントクラス、キャスターにて此度参じた。我が名はスカアハ、冥界、影の国を統べし女王。…生前において私は己を全うした、託す望みなどこれと無い。お嬢さん、貴女の願いとは何か、訊いてもよろしいかな?」

「…あたしは、あたしの願いはですね。…有るんですけど、無いんですよ。聖杯に託す願いは無いけど、というかあの聖杯には願いを託しちゃなんないんすけど。あたし貴女に、お願いが有りまして」

「…よろしい。どうやら事情が有るようだから、詳細は追って訊ねるとして…それでは、マスター。我が力、我が智謀と術策、貴女の願いのために尽くす事としよう。私は其の方の傍へ、下へ。この腕揮ってご覧に入れるとしよう」

「っ、いいんすか?ほんとに?」




明らかにおかしな事を言っただろうに。彼女はやはり微笑んだのみで、了承の意を示した。思わず問い返せば目を少しだけ丸くしてから、くつりと喉で笑って。




「よろしい、と私は言ったよ、マスター。信じられないか?」

「ひえっいやいやいや信じます信じますありがとうございマス!!」

「ならば良かった」




スカアハの笑みは、何処までも穏やかに。





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