ディルムッド
「――レン殿!」
「おや。やぁ、ディルムッド。奇遇だね」
「どちらへ行かれるのですか?」
「商店街へ買い出しに。少し頼まれ事をしたものだから」
「お供をしても構わないだろうか」
「私は構わないよ」
「良かった。主に少し出ていろと申し付けられて、時間を持て余していたところだったもので…」
「あぁ、成る程」
「警護と荷物持ちはお任せを。…とは言え、どちらも貴女には不要なものだろうが」
「ふふ、任せるとしよう。…少しばかり、魅了殺しの効果が薄まってしまっているね。どれ、私が掛け直そう」
「あぁ、やはりか…道理でどうも女性の視線が普段以上だった訳だ…」
「…本当にキミは苦労しているね」
「はは…」
『――はてさて、それで。そこの槍兵よ』
『…何だ』
『あぁ、いや、そう構えずともいい。ただ…キミもこれまた、妖精達から難儀な贈り物をされて大分に困っていたようだと思ってね。無論、それは何も生前に限らず此度の現界においても、だが』
『…!』
『後輩分、と言えばいいか。それが苦を強いられているのを見るというのは実に忍びないものだな。敵うのであったなら、キミの要望次第では解呪も…手立てを考えたところなのだけどね。残念な事に、敵うのであったなら、の話だ。幾ら私であっても、彼女らの施したものを好きなようにどうこうとはいかない…すまないね。抑制であればまだ可能ではあるのだけど』
「…レン殿」
「ん?」
「俺は、貴女と居る時をとても心地好く感じています。気が楽、と言うのがいいだろうか。俺の魅了が効かない事もだが…貴女は女性で、だが、異性というよりもただ、姉のような、母のような…それに、貴女は貴女に向かう妬みや嫉みの視線を如何ともしないから」
「…」
「だからとても、気が楽だ。貴女と居るのは」
「…突然どうしたのかと思ったが、まぁ、それはいいか。私と居る事が、キミの心の安穏に繋がるかい?」
「あぁ。そういう事にもなる」
「そう。それは良かった」