お嬢さん



「正直に言ってしまえばね。…彼女を、…貴女のお姉さんを助ける必要も義務も、まぁ、無かったんだ。そう、それは決して重要ではなくて、ただただ些末な事だった」

「では、何故助けたのかと。…それは、私にとっては至極単純な動機。至極単純でありながら、至極大事な理由なんだ」




「――キミ達は人間だね。紛れなくヒトという動物だね。…さて、キミ達には決して見えるはずが無いもの、ソレについての話をしよう」

「ソレは人によって質が違う。輝きが違う。温度が違う。時として触り心地や匂いすら違う事も有る。同じところはと言えば、まぁ重さと形くらいかな。ソレは、そういうものなんだ」

「ソレって、一体何だと思うかい?」

「――ソレはね、命よりももっとずっと崇高なもの。…ソレは、生きとし生けるもの全ての根幹、世界の始まりを担う素」

「魂だよ。そう、ヒトがただ概念とした、魂の事さ」

「はは、頭がおかしくなったのか、って顔してるね。…だけれど頭がおかしくなったようには見えない、とも思い直しているね。正解は後者だ。別に私は頭がおかしくなってなんかいない。私は、ワタシ達にとってとても当然のものについて今喋った。魂は、きちんと目に見えて存在する」




「――…賢いキミ達になら、もうすっかり、解るね?…そう、貴女のお姉さんに、私が助け船を押し出した理由。…あの人の、貴女のお姉さんの魂はね、彼女が最後に好いた男の魂に、よく似ていたんだ」

「そう、あの2人の魂はよく似ていた。輝きに差こそ見えれどもその輝きの様は、あの透き通った、濁りの無い意志の強さは、熱くて温かい、あの柔らかな眩しさは、とても…とてもよく、似ているんだ。…美しくて、綺麗な、純粋な、あの魂達が、私は愛しくて堪らない」

「愛しくて堪らないものを救けるのは至極当然の事だろう?下心ではなく、真心で動いたんだ。邪ではなく、清らかな理由で動いたんだ」

「――だから、灰原哀。或いはそう、宮野志保」

「貴女のお姉さんを、宮野明美を助けた事に、貴女が懸念するものは全く、一切、これっぽっちも存在しないから。だから安心してほしい。安心して、恐れる事無く…貴女の欠け替えの無い大切な、大好きな貴女のお姉さんの無事を」

「心から、喜べばいい。そして、待てばいい」

「再び彼女に相見えるその日を」

「…お嬢さん、」

「貴女はもう、自由なんだよ」

「貴女の心は、想いは、そう――自由の陽の下へ放たれたんだ」





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -