最推し×最推し=パーフェクトフィーバータイム



酒には割と強い方だ。野郎でさえちらほらと潰れて落ちていく中、まだまだイケんぞオラオラッとグビグビ器を傾けた。チャンポンしたってある程度は平気だ。数合わせは元より、ならば上げマンならぬ上げレディと化しちゃるわ、と誘われた中規模合コンに参加をし、何組かが見事抜けていった末の三次会にて、溢れた面子で飲み明かす。勿論他の女子は既に帰ってしまっていて、そこに残っていたのは、ぶっちゃけどう足掻いてもいい人止まりの哀れな奴らばかり。それを憐憫の眼差しと共に伝えれば、彼らは三者三様の絶望を表していた。悟りを開いたみたいな笑みで宙を遠く見遣る者。テーブルに勢い良くおでこを叩き付け、くぐもった声で呪詛の如く何事か呟き始める者。自棄を起こしたようで号泣しながら追加の酒を叫ぶ者。
そんな彼らに贈るとするなら。強く…生きろ…。これ以外に有るまい。


お開きになったのは深夜1時を回ったところか。自棄酒で泥酔した1人を残る2人が脇から抱えての解散を見送り、ほろ酔いの心地好さの中帰路に着く。悪運が強いのか何なのか、今までどれだけあっさり死んできたか空笑いにしかならないような数々の人生に比べると、此処だって相当に"死は隣人"のはずが、こうして何事も無く愉快に生きている。最高である。今世なら比較的長生きして終われるかもしれん。控えめに言って!最高である!最高に、イイ気分だ…。
セキュリティー万全の高級マンションに構える自宅へ向かい、ロータリーを抜けエントランスを抜け、エレベーターで中階を目指す。チン、という知らせに、分厚い扉が開かれた。この階には2つの部屋が存在するが、片方は常に空室(コネって素晴らしい)のため、実質階層全体が我が家のようなものだ。何という贅沢。るんるん気分でドアへと進路を取る。


新しい技術が出れば即座に機能を取り換える事になっている、現行最先端の指紋認証式ロック(これはこの部屋だけのもので、他は流石にただのカードタイプオートロックだ)を解除して、帰宅。見慣れぬ男物の革靴に目を細めてしまったが、揃えられて小さなスニーカーと仲良く並んだ様を見るに、特に問題は無いのだろう。ドアを隔てたリビングからは会話が細々と漏れてきていた。内容は分からないが、穏やかそうなのは判った。ならば尚の事ノープロブレム。


気配を殺し、足音を消し、忍び寄り、慎重に扉へ触れそぉっと耳を、くっ付ける。身に染み付いた隠行だ。これがまた便利だった。によりとする口元のまま、聞き耳を立てる――、………え?





キィ…と呆けたような音。否違う、そう聴こえるのは他でもない、開け主たるあたしが事実呆けていたからである。目玉をこれでもかとかっ開いた状態で、完全に予想外な光景を、記憶に焼き付けた。待ってなん、え?あ?トリプルフェイスが、トリプルフェイスあむぴが…エッ…リトル・レン姐お膝に抱っこしてぎゅうぎゅうしt、えっでこtoでこ???マ???しんど…えっ尊みしんどし???何だそれ???可愛いか???
バッとこちらに顔を向けるトリプルハニーフェイスを思わずガン見し返すが、お帰りかずちゃん遅かったねぇ、と、彼の腕の中からののんびりした声に反射的にただいまを返す。やっっっっっべあむぴ可愛い〜〜〜警戒してる感じ激かわ〜〜〜ばっか何もしねぇーよ〜〜〜手負いの獣かよ???ぎゃんかわ。





「零くん、この子がルームシェア相手の子ね」

「中谷和実でっっっす!!!!!オナシャッス!!!!!」

「っぁ、あぁ…よろし、く…」

「…かずちゃん、幾ら此処が完全防音だからって流石に声大きすぎ。零くんビクッてなっちゃったでしょ」

「ハアッ大変申し訳有りませんどうぞご随意にわたくしめを罰して頂ければと」

「って言ってるけど、零くんどうする?」

「、…いや…うーん…」

「お飲み物ご用意致しましょうか。アッいやしかしそれではあむぴ様はお召し上がりにはならないか…」

「私ミルクティー飲みたいなぁ」

「イエスマム」





あむぴの髪の毛を眺めながら呟いたレン姐にぐう解ると心の声を返しながらキッチンに向かう。スピーディーに事を済ませた後しっかりじっくりと2人のいちゃラブを目に収めなければならない。これは最早使命である。天命である。あたしは●RECを強いられているんだッ…。あそーいえば2人ってチューはしたんかな?した?まだ?チューまだァ?今のリトルなお姿じゃあ真実がどうであれ犯罪にしかならない訳だけどもそこはホラそれ、ここだけのって、なぁ?おい。見たいです。しんどい。
ミルクパンから熱々の牛乳をレン姐のマグカップに移し、紅茶の三角パックと角砂糖1つを投じる。砂糖を溶かし、パックを数回上下させ粗方色が変わったところで彼女の元へ持っていくと、ありがとー、と少々舌足らずに礼を言われた。はぁ可愛い。小さな手には持ち足りないマグカップを、幾らか危なげな手付きで両手に支えるレン姐。大丈夫か?重いし熱いだろ?なんて優しく気遣うあむぴがレン姐の両手毎マグカップを支えに掛かるのを見てしんどみが増し増した。増さない訳が無かった。しんどい。チューまだ?





「…ねーレン姐」

「んー?」

「チューはした?」

「…くふふ、」

「アァ〜〜〜最の高。20年越しのチューマジ尊みしんどしの極みかよ。生きる」





流れるように両手で顔を覆い、天を仰いだ。素晴らしい。イッツアメィジン。欲を言うならそのシーン是非とも見たかった。20年って…なぁそれなら何でもっと早く逢ってくれなかったんだ、って。あむぴの拗ねた声。やめろあたしを死なす気か。いや待て今お前どんな顔だ?またチューするか?オォン?静かに体勢を戻し確認すれば、声音の通りひどく拗ねた表情でレン姐を見つめていた。寄せた眉間の皺すら可愛らしいとはこれ如何に。仄かに苦笑したレン姐がマグカップをローテーブルに置こうと身動ぐと、むすりとしたままその行動を奪う。拗ねていようが助ける事は助けるらしい。伸ばした腕を引き戻しながら、横抱きにしていたレン姐を正面に座らせ直し、その小さな肩口に顔を埋めぐりぐり…すりすり…ぎゃんかわ。レン姐はレン姐であむぴの項辺りをゆるゆる撫でている。むりしんどい。





「よしよし。そんなに拗ねないで〜」

「寂しかった」


素直に即答かっっっっっわ。


「うんうん」

「何処に居て何してるだろうかって。ずっと考えてた」

「そっか。でもだいじょーぶ、これからはずっと一緒だよ」

「…嘘ついたらダメ、だからな」


ンン"ッ。はぁ…???何だおい可愛いかよ…???


「んはは、それを言われるとは思わなかったな」

「キミが俺にそう言ったんだぞ。責任は取るべきだ」


小首傾げて上目遣い戴きましたありがとうございます。ありがとうございます。駄々を捏ねるような甘えた目元に掠れ気味の甘えた声とかもうほんと。お前。そういうとこやぞ。ありがとうございます。


「だからさっき言ったんじゃない、これは契りだって。何処までも共に在ろうって、誓ったでしょう?」





宥めるみたいに手の甲で、ぐずりとした彼の目元を撫でるレン姐に、甘ったるいに違いない吐息と共に蕩けた笑みを浮かべて落としながら、彼は一層緩んだ空気を身に纏い、そうして彼女へ一心に擦り寄るのだった。


とりまはよKEKKON。





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