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何処よりも此処が、この場所が私のホームなのだ。そうと言い切れる自信が有った。いや、むしろそれ以外など有り得ないだろうとさえ。

死体愛好という性癖持ちであれど、母性たっぷり色欲(感覚的な欲望、という意として)たっぷりのオカマ、基いルッスーリア。
この世は金だと豪語し、貪欲で強欲な守銭奴のアルコバレーノ、基いマーモン。
1にボス2にボス3にボスと言いながらも己以上に彼から気に入られる者には嫉妬を示すウザ男、基いレヴィ・ア・タン。
あれこそ天才とでも言うのだろう、本性は無邪気どころか邪気の塊であり怠惰を翳す切り裂き王子、基いベルフェゴール。
血気盛んさが逆に災いでもしたか、馬鹿みたいに扱いやすく、剣術に対しての傲慢さの奥には弛まぬ努力を隠したカス鮫――おっと、ボスの呼び癖が移ってしまった。

スペルビ・スクアーロ。彼はこの、イタリアンマフィア・ボンゴレファミリー内におき、最強と謳われる独立暗殺部隊『ヴァリアー』随一の苦労人である。と、私は思って疑わない。
実は結構面倒見が良いもので、何だかんだと言いながら助けてくれるのだ。いい奴は報われないのが此所での常識か。哀しきや。



そういえばザンザスってアイスクリーム派だっけ、ソルベ派だっけ、あぁでも氷酒って言う程だからソルベのが食べてくれるに決まってるか。なぁんてそんな事をつい考えていたなら、死に損なっていた虫の息の雑魚にうっかり撃たれて太腿に痛みである。カッツォ!しくったぁ。
ソイツの脳天に刀を突き刺して今度こそ終わりにしてやったけれども、まずった事にどうも脚に力が入らない。これを馬鹿だ何だと言いながらも、背負ってくれるのがスクアーロだ。例えばそれがベルやマーモンだったなら、立てない私を置いてとっとと帰っていってしまうし、或いはレヴィだったなら、ねちねちと日々の妬み嫉みを浴びせるだけ浴びせてやはり自分だけ戻っていくし。ルッスはまぁ抱き上げてくれるだろうが状況によっては部下に任せてこれまたバイバイ。全くとんだ薄情者達である。



幸い大腿動脈を外れていたおかげで大量出血は免れていた。しかしそれとしても、帰り着いた頃には痛みと疲れで眠ってしまっていた訳だけど。
迎えの車に乗り込んだ辺りから記憶は無いので、恐らくその辺りで意識は飛んでいったのだろう。起きた後で思い返したところ、3連続で任務をこなしていた事に気付いた。――あぁ、にしてもこのベッド、馬鹿みたいに柔らかいし何だか嗅ぎ馴れた匂いがするし、どうして此処で寝ていたのか私。や、気持ちいいよ、すごく安心して寝こけるよこれはしょうがない。うんしょうがない。だがしかしそういう問題ではない。



「…ぼす、」

「………」

「お、怒ってる…!…あ、あの、おはようござい、マス」

「来いドカス」



勝手知ったる彼の寝室を出て、2つ在る内の、執務室に直通する方の扉を開ける。部屋の主は窓の傍ら、普段よく見るように、豪奢な執務机に脚を載せて目を閉じていた。声を掛ければ幕の奥から現れて此方を鋭く見てくる紅い目と、その天井を飾る眉間には不機嫌そうにくっきりと刻まれたデコボコ。
間髪を要さずに威圧的な(否、まぁこの人から発されるそれは大概そんなものだけれど)一言が飛んできて。怒られるなぁ…、なんて、1歩ひょこり、1歩ひょこりと歩み寄る毎にテンションが下がっていく。今更嫌われたり見放されたり、使えないと言われたり――要らないと、捨てられ、たり。流石にそのような事は、無い、だろう。…無いはず。………無い無い無い。マジ頼む。無い方向で。お願いします神様仏様閻魔様。

ボスの近くまで来て、あと1・2歩で傍らに、というところで腕を掴まれ引っ張られてはバランスを崩す。それはいつだって力強く、有無を言わせず私を連れていく。流れるように抱き上げられた先、落ち着いたのは彼の膝の上だ。いつの間にか下ろされていた脚が、組まれてそこに在った。
直後ゴツンと脳天を揺さぶる大きな痛み。チカチカと視界に星1つ、2つ。な、殴られた…いつもより痛くないかこれ…いってぇ…!久しぶりに悶絶。



「っ…ッ!ッ!」

「言い訳は」

「う、うぅ…」

「ねぇか」

「あ、有るっ!」



咄嗟に声を上げる。言い訳だなんてそんな、そんな――しっかり有るに決まっている!
些か苛立ったような深いピジョンブラッドに射抜かれ一瞬ウッと体を引いてしまったところで、どうせがっちりと背中を押さえられているのだから後退なんぞこれっぽっちも出来ていない訳なのだけど。

ジロリと此方を見据えたザンザスが、その視線でさっさと言ってみろと促してくる。



「えーと、その、ボス、ボスが…ザンザスが、アイスとソルベどっちなら食べてくれるかなって、考えてて、」

「…ハァ」

「アッ今こいつ馬鹿かとか思ったでしょー…!どうせ馬鹿で間抜けですぅ!…ていうか痛い、うう、」

「痛くしたんだから当然だドカス」



しかしながら、理由を話したなら。不機嫌だったその赤に詰まったそれは呆れたものへと変わり、溜息までも吐かれる。
ハ、と小馬鹿にした様子で、鼻で一笑された。背中で不落の壁を作っていた熱く大きな手が、今度は私の後頭部を、ひどく優しく押さえ付けてゆっくりと。ザンザスの肩口に引き寄せられる。首元へ腕を回せば、椅子の肘置きに空いていたもう1つが、抱っこをするように腰を抱え込んでくる。ほう、と、息が洩れた。何を言わんとしているのかは、解る。彼が心配してくれたのは知っている。だけど自分からは、中々口には出来ない人で。ごめんね、と、主語の無いそれだけでも十分に伝わるだろう。その証拠に、全くだとむっすり唸られた。



「…でも、ありがとう。嬉しい」

「…。…3日の休養をくれてやる」

「ん。どっちがいい?」

「てめぇの好きな方でいい」

「えー、私もどっちでもいいんだけど。…じゃあお酒入ってないアイスにするね。お酒はお酒で飲んでもらえばいいや」

「…」

「…ねぇザンザス」

「…何だ」

「膝枕して、頭撫でててほしいなぁ」



更に擦り寄ったら、ふ、と笑んだような音を聴く。彼にこんな事をねだるのも、彼がそれを許すのも――私を抱えたまま移動するザンザスに抱き着く力を強めれば、その分だけ増した、体臭と香水の混じる匂い。スンと吸い込んだところで丁度ソファーに至ったようだ。もぞもぞと動いて落ち着ける位置を探る。勿論膝枕が柔らかくて心地好いという事は有るはずも無いが、横になって腰に抱き着くと、ひどく安心するから。

髪に指を絡めたり、そうして梳いたり、ゆるりと頭を撫でてくれる、それらは全て私の要望通りだ。言っていない事まで、彼はしっかりと酌んで、たっぷりと与えてくれる。
ザンザスはひどく冷たくて、だけれどすごく熱くて。そのどちらも決して優しいものなどではない。非情で激情、荒々しく尖っていて、彼は恐れられているし、ある意味では危険視されてもいる。――でも、そう、それでいい。この人の柔らかな部分を知っているのは、その柔らかさに触れる事が出来るのは、私だけでいい。他の誰かに見せたら怒っちゃうもんね、なんて、強欲で嫉妬深くて、そして傲慢なのは自分もか。






嗚呼否、ボスはそれら全部だろうけど。


呟いた言葉が甘ったるく染みていく先に、一体、何が在ると言うのか。


(………帰りの車ん中でスクに膝枕されてたような憶えが有るのは言わないどこ…)





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