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田舎のお隣さんご近所さんと言ったら、大概はそれはそれはもう、到底そんな近い場所には無いものだ。下手すると車で数分掛かる、などというような場合もあるだろう。こういった条件下で生活していく事で足腰が勝手に鍛えられていくのである。なんて、えっちらおっちら田舎の、しかも舗装なんて一切されていない砂利道を行っているなう。周囲は見渡す限り畑、または田んぼ、もしくは林、或いは山、流石と言う他無い。




「………」

「…、シカマル君、懐かしい?」

「…いや。やっぱ俺が住んでたとことはまた違った自然っつーか」

「へぇ、そうなんだ」

「こっちは…何つーか、気ぃ抜ける。あと具体的に言うと、森とか谷とかが少ねぇ代わりに田畑と山林が多いな。ま、里の周囲と比べての話だが」

「ふーん。…来たのが、田舎で良かったね?」

「だな。トウキョウとか、あんな高い建物ばっかよりかよっぽどマシだ」




空もよく見えるし、と、上空へちらりと視線を投げて彼は薄らと笑った。盆地の夏の暑さ、ジリジリと照り付けてくる容赦の無いらしい太陽に熱されてじんわりだらりと汗を垂らしながら、足を動かす。ガサリ。脚に当たって音を立てる、シカマル君が持つ野菜の入ったレジ袋。
いわゆるお隣さんである陣内家は武田家臣一族のお屋敷で、私有地も広大、故にご近所さんとなったら馬鹿みたいに遠い。自宅を出て20分程歩かなければならないのだ。1本道と言えば1本道だが、田舎のそれは曲がりくねっているというのを忘れる事勿れ。屋敷や大きな門は見えているにも拘らず時間を食うこの拷問である。しかし羨ましきかな、隣を行く彼は疲れた様子も無い。…流石忍者だわ。




――奈良シカマル。それが彼の名前だ。ひょんな事からウチの居候となった訳なのだが、一般人、と言ってしまうには諸々の部分で枠外であった。簡潔に説明すると、彼は異世界の人間で、何と忍者。これらは嘘では無い事が確認済みだ。まぁ、紆余曲折は省くが。
そんな彼も此方、この世界に来てもう1ヶ月近く経つ。奈良シカマルはひどく冷静な人間で、理解も速く、こんな訳の分からない状況においても非常に落ち着いていた。年齢は16歳と私の1つ下であるくせに実に聡明で、利口で、えらいめんどくさがりである事を除けば頭脳的にはハイスペックもハイスペック。身体能力の観点でも、忍者なのだから問題が有るはずも無い。今や高校の勉強で分からない部分を教えてもらったり、戸籍は無いのでまともな場所では働けなくとも、ちょっとした知り合いが店長をやっている下の街のコンビニへバイトをしに行っていたり等とすっかり馴染んでいたのだった。


ちなみに両親は海外へここ1・2年程出張のようなものに出ていて、私は父方の祖父母の元でお世話になりながら近場の公立高校に通っている。そして突然現れた、込み入った事情を持った1人の少年。そんな彼をお祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、至って快く受け入れたのは年の功だけでは無い、田舎に住む者の許容性も有ったのだろう。若い男手という嬉しい要素も手伝ったに違いないのも吝かでは無いはずだ。




「…近くまで来てみっと、余計でかさ感じんな」

「でしょ」




生垣の道を上ってきて門に辿り着いたとは言え、まだまだ家自体は遠い。目の前に続く上り坂をうんざりとして眺めつつ、隣のシカマル君を見遣って笑う。行こうと促して、めんどくせぇ…、なんてぼやき1つ。それは彼の口癖なのだ。お隣さんである陣内家とは中々懇意にしていて、そこの家長の陣内栄お婆ちゃんがもうすぐ卒寿となるため、お祝いとお裾分けを兼ねて赴く手筈になっているのを数日前に話した時にも零していた。


『あー…だよねぇ、はは。んーまぁシカマル君はあんま関係無い事だし、無理して一緒に来てもらわなくても大丈夫だけどさ。暑いしちょっと掛かるし』

『いい。行く。バイトも休みだしな』

『めんどくさいのに?』

『めんどくせぇけど、荷物持ち』

『1人で行かせるのが心配だからーとか言ってくんないの』

『うっせー』


というように、面倒だと言いながらも結局行動を起こしてくれるものだから、余り悪い要素は無いのだが。1ヶ月程共に過ごしてきて解ったのは、シカマル君は怠がりのめんどくさがりであれど、それが先を考えて発揮されているという事である。要はやはり頭の良さに戻る。
恐らくは、例えば夏休みの課題、これを消化するのは実に面倒だ。しかし仮にやらずに夏休みを明かした場合、出された量をこなさなければならないのは変わらない上にペナルティー追加も有る、となると更にめんどくさい。故に素直に最低分をこなしてしまう方が楽である。だから面倒だが課題の消化に取り掛かる、なんていう流れ。それがシカマル君なのだろう。そしてこれもやはり確認済みだ。





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