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――人気の無いサロンで、1人悠々と授業をすっぽかし読書に耽っていた時だった。ソレはさも弾丸かのように飛び込んできたその勢いのまま、俺が身を預けていたカウチの裏、入り口からは陰になり見えないスペースへと一目散に、また跳び込む。ウサギかネズミかネコか、ともかく小動物が逃げ込んできたとしか思えない程の唐突さ。正直流石に呆気に取られ、すぐには何の反応も出来ず少しだけ硬直を許してしまっていた。



「、っこら!今は授業中、ヒッ」

「…邪魔だカス、失せろ」

「もっ申し訳有りません!…っあのぅ、此方へ女の子が、」



後からバタバタと喧しい音がやって来たかと思えば、此方を見るや否や、相手取ったのが誰かを確認もせず小言を向けてきた愚図な教員を、先程の一瞬の動揺を押し殺して睨め付ける。途端に顔を青白くさせたドカスがそれでも尚別件を持ち出して去ろうとしないため、最早無言で視線を返すと、喉を引き攣らせながら慌ててようやくサロンを出ていった。



「………オイ、チビカス」

「んっ、はい!」

「かっ消されたくねぇならてめーもさっさと失せろ」

「…あー、煩くしちゃってごめんなさい。でももちょっと、…へへっこのサロン落ち着きますね…あっ黙っててくれてありがとうでした、大変助かりました!」



のほほんとした高い声。本来こういう音は本当に耳障りで苛付くもののはずなのだが、どうしてか、これはそう嫌に感じる事も無く。出ていけと言っても出ていかない自分本位で邪魔な存在に、腹の底から怒りをぶつける、それさえも無く。



「授業中なら誰かのジャマする事も無いだろうし、ちょっとタンケンしてみてもいいよねって思って勝手に出てきたんだけど、何かそっこーバレちゃって連れ戻すのに追い掛けられるハメになっちゃいました」

「…今現在、しっかり俺の邪魔になっているがな」

「…アッ…んぐ、ごめんなさい…か、帰るか…」

「………騒いだりうろちょろ視界に入ったりしてこねぇなら、…てめぇの勝手にしろ」

「、!!…んへへ、ありがとうおにーさん」



俺は、ドン・ボンゴレの名を遠くない将来背負っていくこの俺は、誰かが近くに居るとなれば尚の事、気を張り詰め続ける必要が有る。一切誰にも隙を見せず、油断など持ち得ず、何事にも動じぬように。――だがどうだ。何だこの、背後の矮小な生き物は。そもそも俺が、自分の後ろに誰かが存在する事を、どうして。その気配は気になるものなのだが、それでいてあまり気にならないと。苛立たず、ざわめかず、邪魔ではないと。…どうして。




「…だ、そうだ」

「――…ウィッス」

「で?」

「、オハヨーゴザイマス、」

「あれだけ寝こけてやっと起きやがったと思えば第一声がソレたァ、てめぇも本当に呑気なモンだなドカス」

「うえええい怒ってるぅ…」

「身の程知らずが」

「ご、ごめんて…ごめんて…」

「余程かっ消されてぇらしいな」

「だっだってさぁ!」

「口応えすんじゃねぇよドカス」

「ハイ…ごめんなさい…」

「しばらくは俺の部屋から出る事を許さん。出やがったらしばらくどころじゃ済ませねぇ、いいな」

「イエッサァ…」

「…」

「………た、だいま。心配させてごめん、ありがと」

「………カスが」



情けないようなだらしの無い笑みを見届けてから、ベッドに沈む細い体を緩やかに抱き起こし、己の膝上に引き寄せる。あまりにも違う体格に嫌でも湧き上がってくるこの妙に温い何かが、そうは言っても、決して嫌ではない。いつまで経っても差は埋まらないし、埋まってほしいとも思わない。腕の中に大分すっぽりと収まってしまうこの娘の抱き心地は、あの頃に比べ、随分と柔みを得たものだ。





 

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