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2つの変なモノの内、片方は、出所が明確で明白だった。何とあのボンゴレ次期10代目・沢田綱吉の実の姉なのだという。名を、沢田千代。とても日本人らしく、嫋やかな響きだ。まぁこれを感想として出したところで、目の前のXANXUSという男は果てし無くどうでもいいと完全に興味の無い一蹴を返すのだけれど。
そもそも、確かにそういえばあの時に――2年前の大謀反時に、調べて出てきたデータを自分も見たのだったとようやく思い出す。そして、失笑を堪える。そうだ、確かそういえば、あの時も今と同じように、日本人らしい嫋やかな響きだという率直な感想をうっかり口にしてしまい、物凄い視線を食らったのだった――幹部全員から。

さてもう1つの方。これがまた、奇妙だし厄介が匂う。何でも突然、急に、いきなり、不意に湧いて出たのだと。このあまりにもあまりに、な表現には流石に漣もポカンとし、ひでぇ間抜け面だな、とXANXUSが呆れて少しだけ機嫌を持ち直したのはちょっとしたファインプレーではあったのかもしれないが。



「…えー…ぇえ、」

「押し並べて、クソ面倒なドカス共だ」



ゆっくりと自身でも噛み締め直すかのようにまた1度、男は唸った。深く大きな溜め息と共に、だ。苛立ちと疲労と嫌悪と…エトセトラの負のオーラを轟と放つ彼の、見た目に硬そうで実は意外にふわふわとしている髪質の頭を、思わず憐れを見た漣がよしよしと撫ぜる。同情と憐憫の色を隠さないその仔猫の如きサックスブルーに、剣呑なピジョンブラッドがギロリと向きこそすれ、それ以上の険しさを湛える事は無く閉ざされて、男は無言で、離れていた女の肢体を抱き寄せ肩口に顔を埋めるのだった。
この様子だ。恐らく、現れてから1週間近く経つ中で(漣が任務に発ったすぐ後の事だったらしい)既に何がしかの出来事が起きているのだろう。特に前者、沢田千代。彼女の血筋、即ち立場が立場である。手荒にもぞんざいにも扱えるはずが無い、むしろ大事に大事に守らねばならない。何故そのお鉢がヴァリアーに回ってきたのかは不明だが、ボンゴレめ七面倒を寄越してきよって、と漣もうっそり溜め息を吐く。



「一切関わるな、って事は、しばらく雲隠れでもしてればいいの?…雲隊隊長なだけに雲隠れ、ぶふっ」

「…」

「…、ンンッ!何でも無いデスヨ」

「…。それが出来るならこうも唸りゃしねぇ。どの道てめぇには隊がねぇんだ、小回りが最も利くとなりゃあ、」

「バレないように沢田千代を警護して、バレないようにもう1人の方を監視してればいい訳ね。りょぉーかいデス」



そういう部分での頭の回転はしっかりとしている。それを誉める事も、そもそも指摘する事も無いけれど――そこもまた、いい、と。1人小さく口の端が笑う。



此処ヴァリアーでは、死ぬ気の炎の属性毎にこれを基準として部隊を分けて設け、人員を振り分ける。その中で唯一、部隊でありながら部隊として成立出来ていない部隊が存在した。――雲属性保持者主体の、雲隊。この部隊の構成人数は、1名である。
別段、雲属性がメインの人間がヴァリアーに居ないという訳ではない。ただそういった者達は、その他の保持属性や扱う武器系統、或いは職務内容の向き不向き等の部分で振り分け直され、各部隊方々へと散っている。XANXUSは雲隊を、"増殖"を性質とし『何者にも囚われず我が道を行く孤高の浮雲』を体現する属性として、たった1人に全てを任せ、責務を負わせ、最早これを私兵へと変えた。雲隊隊長にして唯一の雲隊員――それこそが、漣であった。



無言は彼からの肯定を意味する。寡黙で乱暴な物言いをするこの男の意向を酌むとなれば、『無言は肯定』は基本中の基本である。そして肯定でないのなら、何かしらの反応を返してくる。…たとえそれが言葉ですらなく、殴る蹴る投げ付けるであったとしても、である。
――ちなみに比較的相性の良い相手との会話は、それなりに続きはする。特に漣に限って言えば、極端な例、どころか例外も例外な訳だけれど。これは単純に『つい口を開いてしまうし、それで長く喋るのも吝かではない』からだろう。勿論本人はそんな事なぞ死んでも言わなかろうが。



「…ま、取り敢えずお風呂だなぁ。ザンザスは…眠そーね。ちゃんと報告書出しとくから、先寝てるんだよー」

「………うるせぇ、誰に指図してやがるカス」



微かに舌足らずになってまで悪態をつくのだから、まるで子供のぐずる様である。今度は男が、漣へと肌を擦り寄せる。
自分の帰りを起きて待っていてくれた事には嬉し愛しと言えど、これでも結構律儀だし甘えん坊だし、可愛いところが幾つも有るんだよなぁ、なんて。宥めるように黒髪をわしわしと撫でると、さぁ風呂だと、漣は目下の大きな子供を引き剥がしに掛かるのだった。






その男がそのように接しそのように示すのは、他の何処を、どの時間どの世界を探してすら、彼女以外には存在し得ないのである。

押し並べてこれは

(んー、起きたらルッスんとこ行って色々詳しく訊かないとなぁ)





 

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