海軍本部にてドフラミンゴと
男は、ひっそりと、しかし多くの人間に知られ、そうして多少なりと気に入られていた。
とある老爺将はひ弱そうなくせに中々やりおると笑い、とある老婆将は強かというよりは小狡い子だよと息を吐き、とある緩い男将はまァ悪い奴じゃあねぇわなと頬を掻く。小さな島の小高い丘に在る診療所で医者をやっている男は彼をいい人だと言い、その幼い1人娘は彼に抱き着いてはキャッキャと楽しげに声を上げる。
何かしらを見出して記憶に留める者、取るに足らないと下して記憶から消す者。男自身はそのどちらでも構わなかったし、故に、特別そうされるための事もしなかった。それらは単なる結果に他ならない。己の価値観による判断が道を辿った先、到ったそこにその結末と顛末が存在したというだけの話である。彼には大した下心など無かった。まぁ小さいものこそ有れど、実に些末だ。
だからこそ。真心と手放しに言ってしまうには些か首を傾げて苦笑もしようが――本人がそこまでではと真顔で横手を振ろうが、だからこそ、男は。彼は、ひっそりと、しかし多くの人間に知られ、そうして多少なりと気に入られているのだろう。
「――よぉ、ドフラミンゴ君」
「…フッフ!相変わらずガキくせぇように呼んできやがる」
「おつるさんのとこに行くのか?」
「行こうと思ったら私用が出来ちまった」
「そりゃあ残念だったなぁ」
「全くだ」
立ち止まってほんの1分も経過していない。両者が似たようなタイミングでまた脚を踏み出す。
2人は1人の老婆将を介して知り合ったが、それから親しくしているという程には無く、軽い世間話を交わすくらいの間柄である。無言で擦れ違う事に何の感情も生まれはしなかった。