とある春島にてハート一味と



初め、何処か訝しさの混じる恐る恐るといった様子で接されていたイチハツであったが、歳の割に聡明な自分達の1人娘がとても楽しそうに引っ付いている事で、その両親もようやくと警戒を完全に解いたようだった。何も疾しさなど無いのだから隠すものでも無いというのも有り、訊ねられれば丁寧に答えて返していたのも理由として大きいだろう。
少女がきゃっきゃと若い男に抱き着き、父親と母親がそれを見て笑う。日が暮れる頃にはすっかり和気藹々とした間柄へと変わっていた。




明日も来て、とサニにねだられ、まだしばらくこの島に滞在しなければならないでいるイチハツには断る理由が無い。荷積みを終え、ログが溜まりきった商船が出航を果たすのはあと4日程先の事である。
港町から少しだけ離れた小高い丘にぽつんと存在する、下の町、ひいてはこの小さな春島唯一の診療所である民家。そこまでの道をのんびりと、温かな陽光に照らされながら彼は歩いていく。


ドアの前には何者か数名が居た。人間が3人――そして白い、恐らくは動物、が1匹、否1頭だろうか。とかくそれは2本脚で地に立っている。大分前より異変に気付いていたイチハツは、気配と足音を絶ち、そこへと近付いていた。




「――っだから…!本当に、お見せ出来ないんです、どうかお引き取り下さい…!」

「………そうか。………どうしても無理だと言うんなら、」




サニの父親であるファニの焦ったような声音。どうも雲行きは怪しい。ツナギで統一された中に、1人、長刀を肩に掛けた細身の男が静かに言葉を吐く。まず以て彼らは何処ぞの海賊一団なのだろう。そしてその者がそれの頭、船長、キャプテン。出来る事ならば穏便にいきたいところであるが、果たして叶うものなのか。めんどくせぇねぇ、と心中でごちる。




「よぉ、お兄さん。どうしても無理だってぇんなら、一体全体どうするってぇんだ?」




3m離れた位置で歩みを止め、声を掛けた。一斉に振り向く招かれざろう客達。白い巨体は熊に似ている。キャスケット帽にサングラスの男も、『PENGUIN』とロゴプリントされた帽子を被った男も、その動物も、そしてリーダーらしき男も、全員が驚いた表情を浮かべていた。
すぐに眉を顰めた、イチハツと同じように隈の濃い彼が、警戒した様子を露わにして口を開く。――そういえば、あのジョリー・ロジャー、何かで目にしたような。




「………それがお前に関係有るか?」

「おぉ、大有りだ。親しい人らに危害が及ぶようなら、黙っちゃあいられねぇからなぁ。んー、何か、医学書でも見せてもらいに来たってぇのか?死の外科医さんよ」

「…」

「ファニさんがどうして見せらんねぇのかは俺ァ知らねぇが、無理強いはあんまりいいもんじゃあねぇぜぇ?…まぁ、」




海賊にはそれこそ無理な話ってやつかねぇ、と、そうして笑う。





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